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二十五〜二十六 (1)

作 泉鏡花 · 2026-04-01

ただ一筋の水流が岩を越え、男滝にしがみつこうとする姿は、まるで隔てられた世界の中で、雫一つ通わぬ苦しみを味わっているようだった。彼女は姿を窶れさせ、容も細く、流れる音さえも別のものに聞こえる。泣いているのか、怨んでいるのか、あわれにも優しい女滝であった。

一方、男滝はその力強さを誇示し、石を砕き、地を貫く勢いで堂々と流れ落ちていた。二つの滝は岩に当たって左右に分かれ、女滝の心を砕く様子は、まるで男の膝に寄り添う美女が泣きながら身を震わせているかのようだった。岸にいるだけで体がわななくほどの迫力で、肉が跳ねる。ましてやこの水上には、昨日孤家の婦人と水を浴びたことを思い出すと、その女滝の中に彼女の姿が浮かび上がり、巻き込まれては沈み、また浮かび上がる。千筋に乱れる水の中で、その肌が粉々に砕け、花びらのように散っていく。ああ、と思うと、元の顔も、胸も、手足も完全な姿となって浮いたり沈んだりし、ぱっと刻まれ、あっという間にまた現れる。私は耐えきれず、真逆に滝の中へ飛び込んで、女滝をしっかり抱きしめたと思った。しかし、気がつくと男滝は堂々と地響きを立てて流れ続けていた。ああ、その力をもってなぜ救ってくれないのか、無情だ!

滝に身を投げて死ぬよりも、旧の孤家へ引き返すべきだ。汚らわしい欲があるからこそ、こうなったのだと躊躇する。彼女の顔を見て声を聞けば、彼ら夫婦が同じ布団で寝ているのに、何の支障もない。それでも、汗をかきながら修行するよりは、坊主で終わるよりずっとましだと、思い切って戻ろうとした。石を放して身を起こすと、背後から一つ背中を叩かれた。

「やあ、ご坊様。」と声がかけられた。時が時なり、心も心、後ろ暗いので驚いて振り向くと、閻王の使いではなく、親仁だった。

「馬は売ったか?」と尋ねられ、身軽になって小さな包みを肩にかけ、手には一尾の金色の鯉をぶら下げていた。鱗が光り、尾が動きそうなその鯉は、約三尺ほどの大きさで、顎に藁を通して提げていた。何も言わずにじっと見つめると、親仁は私の顔をじっと見て、にやにやと薄気味悪い北叟笑を浮かべて言った。

「何をしているのか、ご修行の身がこのくらいの暑さで岸に休んでいるとは、あんまりじゃないか。一生懸命に歩かなければ、昨夜の泊からここまでたった五里、もう里へ行って地蔵様を拝む時刻だぞ。何か、己が嬢様に念がかかって煩悩が起きたのか? うんにゃ、隠さなくてもいい。俺の目は赤くても、白いか黒いかはちゃんと見える。普通の人間なら、嬢様の手が触れてあの水を振る舞われて、今まで人間でいるはずがない。牛か馬か、猿か蟇か、蝙蝠か、何にせよ飛んだり跳ねたりしなければならない。谷川から上ってきた時、手足も顔も人間だったから、俺は魂消たくらいだ。お前様、それでも感心するほど志が堅固だから助かったようなものだよ。」

「何と、おらが引いて行った馬を見たろう。それで、孤家へ来る山道で富山の反魂丹売に出会ったというではないか。あの助平野郎、とうに馬になって、それが馬市で銭になって、お金が、そう、これが鯉に化けた。大好物で晩飯の菜になる、お嬢様を一体何だと思っているのか。」

私は思わず遮った。

「お上人?」

上人は頷きながら呟いた。

「いや、まず聞いてほしい。あの孤家の婦人というのは、旧な、これも私には何かの縁があった。あの恐ろしい魔処に入ろうという岐道の水が溢れた往来で、百姓が教えてくれたが、あそこは以前医者の家であったという。その家の嬢様だ。何でも飛騨一円では、当時変わったことも珍しいこともなかったが、ただ取り出して言う不思議はこの医者の娘で、生まれた時から玉のように美しかった。

母親は頬がふくれ、目尻が下がり、鼻が低い、俗に言うさし乳というあの毒々しい左右の胸の房を持っていたが、どうしてあれほど美しく育ったのだろう。昔から物語の本にもあるように、屋の棟に白羽の征矢が立つか、さもなければ狩倉の時に貴人のお目に留って御殿に召し出されるのは、あんなのだと噂が高かった。

父親の医者は、頬骨がとがった髭の生えた、見栄坊で傲慢だったが、その癖に田舎では刈入れの時によく稲の穂が目に入ると、それから煩う。脂目、赤目、流行目が多いから、先生は眼病の方は少し扱ったが、内科に関してはからっぺた。外科なんて来た日にゃ、鬢に水を垂らしてひやりと傷に付けるくらいのところだった。

鰯の天窓も信心から、それでも命数の尽きぬ者は本復するから、外に竹庵養仙木斎の居ない土地で、相応に繁盛した。殊に娘が十六七、女盛りになった時分には、薬師様が人助けに先生の内に生まれたということで、信心渇仰の善男善女が病男病女が我も我もと詰めかけた。

それというのが、始まりはあの嬢様が、馴染の病人には毎日顔を合せるところから愛想の一つも、あなたお手が痛みますかい、どんなでございます、と言って手先に柔らかな掌が触れると、最初は若い男ばかりに利いたが、だんだん老人にも及び、後には婦人の病人もこれで復る、復らぬまでも苦痛が薄らぐ。根太の膿を切って出すさえ、錆びた小刀で引き裂く医者殿が腕前じゃ。病人は七顛八倒して悲鳴を上げるが、娘が来て背中にぴったりと胸をあてて肩を押さえると、我慢ができるというようなわけであったそうだ。

ひとしきりあの藪の前にある枇杷の古木に、熊蜂が来て恐ろしい大きな巣をかけた。すると医者の内弟子で薬局を手伝い、拭掃除もすれば、総菜畠の芋も掘る、近い所では車夫も勤めた、下男兼帯の熊蔵という、その頃二十四五歳、稀塩散に単舎利別を混ぜたのを瓶に盗んで、内が吝嗇だから見つかると叱られる。これを股引や袴と一緒に戸棚の上に載せておいて、隙あればちびりちびり飲んでいた男が、庭掃除をすると言って、件の蜂の巣を見つけたのだった。

縁側にやって来た彼女は、楽しそうな声で言った。「お嬢様、面白いことをお見せしましょう。無礼を承知でお願いですが、私の手を握っていただけますか?そうすれば、あの蜂の中に突っ込んで、実際に蜂を掴んでみせますよ。もし手が触れてしまったところだけが刺されても、痛みはありませんから。竹箒で払えば、蜂たちは八方に散ってしまいますが、そうなったらもう手に負えません。即死してしまいますからね。」

彼女は微笑みながら、無理に私の手を握らせようとした。私は少し戸惑いながらも、彼女の言葉に引き込まれ、ついて行くことにした。すると、凄まじい虫の唸り声が聞こえてきた。やがて、彼女が左手に熊蜂を七、八匹掴んで戻ってきた。羽ばたく音や、脚を振る動きが見えた。その中には、掴んだ指の間から這い出してくる蜂もいた。

「さあ、あの神様の手が触れれば、鉄砲玉でも通らないでしょう。」彼女は自信満々に言った。まるで蜘蛛の巣のように、評判が八方に広がっていく。

その頃から、彼女は何かを感じ取ったのか、白痴のように見える存在に身を任せて山に籠もることが多くなった。すると、神秘的な変化が起こり、年を重ねるごとに神通力が自在になっていった。最初は体全体を押し付けるような感覚だったのが、次第に足や手先にまで広がり、果ては距離があっても、道を迷うことがなくなったのだ。