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十九〜二十一 (1)

作 泉鏡花

辻の手前で、富山の反魂丹を売る男に出会ったが、私は一足先にこの道に入ってしまった。

「ああ、そう。」婦人は微笑みながら、蘆毛の方を見た。その姿は、耐え難く可笑しいといった風情だった。

彼女はとても親しみやすく見えたので、私は思わず尋ねた。「もしかして、こちらの家にお越しではないですか?」

「いいえ、存じません。」と答えた瞬間、彼女はまるで別人のように神妙な顔つきになった。私は言葉を失い、彼女は馬の前足の下に小さな親仁を見つけて、ため息をついた。

「しょうがないねえ。」そう言いながら、彼女は細帯を解きかけた。片端が土に引っ張られそうになるのを、ちょっと待たせて掻き取った。

「ああ、ああ。」と、白痴が濁った声を出し、ひょろりとした手を差し出した。婦人は解いた帯を渡し、まるで風呂敷を広げるように、力のない膝の上に宝物を守るように置いた。

婦人は衣紋を抱え、乳の下で押さえながら静かに土間を出て、馬のそばに寄った。私はただ呆然と見ていると、彼女は爪立てて馬に手を伸ばし、二三度鬣を撫でた。

彼女は大きな鼻の前にすっくと立ち、丈も急に高くなったように見えた。婦人は目を据え、口を結び、眉を開いて恍惚とした様子だった。愛嬌も嬌態も失せ、まるで神か魔かと思わせるような雰囲気だった。

その時、裏の山や向こうの峰が、左右前後にすくすくと立ち上がり、一つ一つ嘴を向け、頭を擡げて、この別天地に親仁を控え、馬に向かって彳んだ月下の美女の姿を覗き込むように、陰々として深山の気が籠ってきた。

生ぬるい風のような気配を感じると、彼女は左肩から片膚を脱ぎ、右手を前に回し、ふくらんだ胸のあたりで着ていた単衣を持ち、霞も絡まぬ姿になった。

馬は背中や腹の皮を弛め、汗が流れ落ちそうになり、突張った脚もなよなよとして身震いした。鼻面を地につけて一掴みの白泡を吹き出したと思うと、前足を折ろうとした。

その時、婦人は頤の下に手をかけ、片手で持っていた単衣をふわりと投げて馬の目を覆った。馬は驚いて跳ね、仰向けに身を翻し、朦朧とした月明かりの中で、前足の間に皮膚が挟まったと思うと、衣を脱ぎ捨てて下腹を潜り抜けて出た。

親仁はその瞬間を見逃さず、手綱を引いた。馬はすたすたと健脚を山路に上げ、しゃん、しゃん、しゃん、しゃんしゃん、しゃんしゃんと、見る間に視界から遠ざかっていった。

婦人は早くも衣服を引き上げて縁側に入ってきた。突然、帯を取ろうとすると、白痴は惜しそうに押さえつけ、手を上げて婦人の胸を圧そうとした。

婦人は邪慳に払い退け、きっと睨みつけると、白痴はがっくりと頭を垂れた。すべての光景は、行燈の火も幽かに幻のように見えたが、炉にくべた柴がひらひらと炎を立てたので、婦人は急いで中に走り込んだ。空の月の裏を行くと思うと、遠くから馬子歌が聞こえてきた。

さて、それからご飯の時間がやってきた。膳には山家の香の物、生姜の漬け物や、わかめの茹でたもの、塩漬けの名も知らぬ蕈の味噌汁が並んでいた。決して豪華ではないが、なかなかのお手料理だった。私はお腹が空いていたし、冥加至極なお給仕に感謝しながら、盆を膝に構えて肘をつき、頬を支えながら嬉しそうに見ていた。

縁側にいた白痴は、誰も相手にされず、堪えきれなくなったのか、ぐたぐたと膝行して婦人のそばにその便々たる腹を持ってきた。崩れるように胡坐をかき、しきりに自分の膳を見つめて指を指した。

「うううう、うううう。」

「何ですか、後でお食べなさい。お客様じゃありませんか。」

白痴は情けない顔をして口を曲げ、頭を振った。

「厭?しょうがありませんね。それじゃご一緒に召し上がれ。貴僧、ご免を蒙りますよ。」

私は思わず箸を置いて、「さあどうぞお構いなく、とんだご雑作を頂きます。」と言った。

「いえ、何の貴僧。お前さん、後ほど私と一緒にお食べなさればいいのに。困った人でございますよ。」と、婦人は愛想良く、手早く同じような膳を用意して並べて出した。

飯のつけ方も見事な女房ぶりで、しかもどこか奥ゆかしさがあり、高家の風情が漂っていた。

白痴はどんよりした目を上げて膳の上を見つめていたが、「あれを、ああ、ああ、あれ。」といってきょろきょろと周囲を見回した。

婦人はじっと彼を見つめ、「まあ、いいじゃないか。そんなものはいつでも食べられます。今夜はお客様がいらっしゃるのですよ。」と言った。

「うむ、いや、いや。」と白痴は肩を揺らし、べそをかいて泣き出しそうになった。

婦人は困り果てた様子で、傍にいる者の気の毒さを思った。「嬢様、何か存じませんが、おっしゃる通りになさった方がよいのではありませんか。私にお気遣いはかえって心苦しいです。」と丁寧に言った。

婦人はもう一度、「厭かい、これでは悪いのかい。」と問いかけた。白痴が泣き出しそうになると、婦人は怨めしげに流れる視線を向けながら、壊れかけた戸棚の中から鉢に入ったものを取り出し、手早く白痴の膳に載せた。

「はい。」と、故意にすねたように言いながら、笑顔を作った。

さて、目の前で黄色い蛇の旨煮か、腹籠の猿の蒸焼きか、災難が軽くても、赤蛙の干物を大口にしゃぶるのだろうと、私はそっと見ていた。片手に椀を持ちながら掴み出したのは老沢庵だった。

それも、刻んだのではなく、一本三ツ切にしたものを横に咥えてやらかしていた。

婦人はよくよくあしらいかねたのか、盗むように私を見て顔を赤らめた。そんな質ではないはずなのに、羞かしげに膝の手拭の端を口に当てた。

なるほど、この少年はこれであろう。身体は沢庵色にふとっている。やがて、わけもなく餌食を平らげ、湯とも言わず、ふッふッと大儀そうに呼吸を向こうへ吐いた。

「何ですか、私は胸に支えましたようで、ちっとも欲しくありませんから、また後ほどに頂きましょう。」と婦人は自分は箸も取らずに、二つの膳を片づけていった。