注文の多い料理店 (2) (1)
作 宮沢賢治
「壺の中のクリームを顔や手足にしっかり塗ってください。」
そう言われて、彼らは確かに壺の中にあるものが牛乳のクリームであることに気づきました。
「クリームを塗れというのは、一体どういうことなんだろう。」
「これはね、外がとても寒いからだよ。室内があまり暖かいと、肌にひびが入るから、その予防なんだ。どうも奥には、かなり立派な方がいらっしゃるみたいだね。こんなところで、意外にも私たちは貴族と近づくことができるかもしれないよ。」
二人は壺のクリームを顔に塗り、手にも塗りました。それから靴下を脱いで、足にも塗りました。それでもまだクリームが残っていたので、二人はこっそりと顔に塗るふりをしながら、少しずつ食べてしまいました。
その後、急いで扉を開けると、裏側にはこう書かれていました。
「クリームをよく塗りましたか?耳にもよく塗りましたか?」
そこには小さなクリームの壺が置いてありました。
「そうだ、僕は耳には塗ってなかった。危うく耳にひびが入るところだったよ。ここの主人は本当に用意周到だね。」
「本当だ、細かいところまでよく気がつくね。ところで、僕は早く何か食べたいんだけど、こうして廊下にいても仕方ないね。」
すると、すぐその前に次の戸がありました。
「料理はもうすぐできます。十五分もお待たせしません。すぐに食べられます。早くあなたの頭に瓶の中の香水をよく振りかけてください。」
戸の前には金色の香水の瓶が置いてありました。
二人はその香水を頭にぱちゃぱちゃと振りかけました。しかし、その香水はどうも酢のような匂いがしました。
「この香水、変に酢くさいな。どうしたんだろう。」
「間違えたんだ。下女が風邪でも引いて、間違って入れたんだよ。」
二人は扉を開けて中に入りました。
扉の裏側には、大きな字でこう書かれていました。
「いろいろと注文が多くてうるさかったでしょう。お気の毒でした。もうこれだけです。どうか体中に、壺の中の塩をたくさんよくもみ込んでください。」
立派な青い瀬戸の塩壺が置いてありましたが、今度は二人とも思わず顔を見合わせました。クリームをたくさん塗った顔で。
「どうもおかしいな。」
「僕もおかしいと思う。」
「たくさんの注文というのは、向こうがこちらに注文しているんだよ。」
「だから、西洋料理店というのは、僕の考えでは、西洋料理を来た人に食べさせるのではなくて、来た人を西洋料理にして、食べてしまう家なんだ。つまり、ぼ、ぼ、ぼくらが……。」彼は震えだし、もう言葉が出ませんでした。
「その、ぼ、ぼくらが、……うわあ。」震えながら、もう何も言えませんでした。
「逃げ……。」震えながら一人の紳士は後ろの戸を押そうとしましたが、どういうわけか、戸は一分も動きませんでした。
奥の方にはまだ一枚扉があり、大きな鍵穴が二つついていて、銀色のフォークとナイフの形が切り抜かれていました。
「いや、わざわざご苦労です。大変結構にできました。さあさあ、お腹にお入りください。」
と書かれていました。おまけに鍵穴からは、きょろきょろとした目が覗いていました。