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九〜十一

作 芥川龍之介

その時、弟子の姿はまるで酒甕が転がっているかのようでした。手足は惨たらしく折り曲げられ、動くのは首だけ。体中の血が鎖によって循環を止められ、顔も胴体も赤みが差していました。しかし、良秀はその様子を気にすることもなく、酒甕のような弟子の体をあちこちから眺め、同じような絵を何枚も描いていました。その間、弟子がどれほど苦しんでいたかは、言うまでもありません。

もし何事も起こらなかったら、この苦しみはさらに続いていたことでしょう。幸運と言うべきか、あるいは不幸と言うべきか、しばらくすると、部屋の隅にある壺の陰から、黒い油のようなものが細くうねりながら流れ出てきました。最初は粘り気があり、ゆっくりと動いていましたが、次第に滑らかに流れ始め、やがて光りながら弟子の鼻の先まで達しました。弟子は思わず息を呑み、「蛇が――蛇が。」と叫びました。その瞬間、全身の血が凍りつくような恐怖を感じたのも無理はありません。蛇はまさに、鎖に食い込んだ首の肉に冷たい舌を触れようとしていたのです。この予想外の出来事に、どんなに冷静な良秀でも驚いたことでしょう。慌てて画筆を投げ捨て、身をかがめると、素早く蛇の尾をつかまえて逆さに吊り下げました。蛇は吊り下げられながらも頭を上げ、自分の体に巻きつこうとしましたが、どうしても良秀の手には届きませんでした。

「おのれ、これでは一筆を仕損じたぞ。」良秀は忌々しげに呟き、蛇を部屋の隅の壺の中に放り込みました。そして、弟子の体にかかっている鎖を解いてくれましたが、優しい言葉一つかけることはありませんでした。弟子が蛇に噛まれるよりも、絵を描くことに失敗したことが悔しかったのでしょう。後で聞いたところによると、この蛇も良秀が姿を写すためにわざわざ飼っていたものだそうです。

これだけのことを聞いたら、良秀の気違いじみた、薄気味の悪い夢中になり方が少しは理解できたことでしょう。しかし、最後にもう一つ、今度はまだ十三四の弟子が、やはり地獄変の屏風の影で、命に関わる恐ろしい目に遭いました。その弟子は生まれつき色白で、女のような男でしたが、ある夜、何気なく師匠の部屋に呼ばれました。すると、良秀は燈台の火の下で、掌に何やら生臭い肉を載せ、見慣れない一羽の鳥を育てていました。その大きさは、普通の猫ほどもありそうです。耳のように両側に突き出た羽毛、琥珀のような色をした大きな丸い目は、見た目もどこか猫に似ていました。

元々、良秀という男は、自分のしていることに口を出されるのが大嫌いでした。先ほどの蛇もそうですが、自分の部屋に何があるかを弟子たちに知らせたことはありませんでした。机の上には髑髏が置いてあったり、銀の椀や蒔絵の高坏が並んでいたり、その時描いている絵によって、思いもよらない物が出てくることもありました。しかし、普段はそうした品々を一体どこにしまっているのか、それは誰にもわからなかったようです。良秀が福徳の大神の冥助を受けているという噂も、確かにそういうことがあったのかもしれません。

そこで弟子は、机の上のその異様な鳥も、やはり地獄変の屏風を描くのに必要なのだろうと考え、師匠の前で「何か御用でございますか」と恭しく尋ねました。すると良秀はまるでそれが聞こえないかのように、赤い唇を舐めながら、「どうだ。よく馴れているではないか。」と、鳥の方に顎を向けました。

「これは何というものでしょうか。私はまだ見たことがありませんが。」弟子はそう言いながら、耳のある猫のような鳥を気味悪そうにじろじろ眺めました。良秀はいつもの嘲笑うような調子で、「なに、見たことがない? 都育ちの人間はそれだから困る。これは二三日前に鞍馬の猟師がくれた耳木兎という鳥だ。こんなに馴れているのは、そう多くはないだろう。」と言いました。

そう言いながら、良秀はゆっくり手を上げ、ちょうど餌を食べ終えた耳木兎の背中の毛を優しく撫で上げました。その瞬間、鳥は急に鋭い声で短く一声啼くと、机の上から飛び上がり、両脚の爪を張りながら弟子の顔に飛びかかりました。もしその時、弟子が袖をかざして慌てて顔を隠さなかったら、きっと傷の一つや二つは負っていたことでしょう。「あっ」と叫びながら、袖を振って追い払おうとするところを、耳木兎は再び嘴を鳴らしながら突進してきました。弟子は師匠の前も忘れ、立っては防ぎ、座っては逃げ、狭い部屋の中をあちらこちらと逃げ惑いました。怪鳥もそれに合わせて、高く低く飛びながら、隙あらば目を狙って飛んで来ます。その度に、ばさばさと凄まじい翼の音が響き、落葉の匂いや滝の水しぶき、あるいは猿酒の腐ったような匂いが漂い、気味の悪さは増すばかりでした。弟子は、薄暗い油火の光が朧げな月明かりのように思え、師匠の部屋が遠い山奥の妖気に閉ざされた谷のように心細く感じたと語っていました。

弟子が恐れていたのは、耳木兎に襲われることだけではありませんでした。むしろ、もっと身の毛がよだつのは、師匠の良秀がその騒ぎを冷静に眺めながら、ゆっくりと紙を広げ、筆を舐めている姿でした。女のような少年が異形の鳥に虐げられる様子を、恐ろしいほどリアルに描写していたのです。弟子はその光景を一目見た瞬間、言葉にできない恐怖に襲われ、思わず師匠に殺されるのではないかとさえ考えてしまいました。

実際、師匠に命を奪われることも全くないとは言えません。あの晩、弟子をわざわざ呼び寄せたのも、耳木兎をそそのかして、弟子が逃げ回る様子を描こうとする魂胆だったのかもしれません。弟子は、師匠の顔を一目見るなり、両袖で頭を隠しながら、何を言ったのかもわからない悲鳴を上げ、そのまま部屋の隅にある戸の裾に縮こまってしまいました。その瞬間、良秀も何かに驚いたような声を上げ、立ち上がる気配を見せましたが、耳木兎の羽音はますます激しくなり、物が倒れる音や破れる音が、耳をつんざくように響いていました。

弟子は二度も驚き、隠していた頭を上げて部屋の中を見回しました。いつの間にか部屋は暗くなり、師匠が弟子たちを呼ぶ声が苛立たしげに響いています。

やがて、弟子の一人が遠くから返事をし、灯をかざしながら急いでやってきました。その煤臭い明かりの中で見ると、灯台が倒れ、床も畳も油まみれになっていました。さっきの耳木兎が片方の翼を苦しそうにはためかせながら、転げ回っているのです。良秀は机の向こうで半身を起こし、呆然とした表情で何かをぶつぶつ呟いていました。――それも無理はありません。耳木兎の体には、真っ黒な蛇が一匹、首から片方の翼にかけて、きつく巻きついていたのです。おそらく、弟子が縮こまる拍子に、そこにあった壺をひっくり返し、その中の蛇が這い出したのを、耳木兎が無理に掴もうとしたために、こうした大騒ぎが始まったのでしょう。二人の弟子は互いに目を合わせ、しばらくはこの不思議な光景をぼんやりと眺めていましたが、やがて師匠に黙礼をし、そっと部屋を引き下がりました。蛇と耳木兎がその後どうなったのか、それは誰にもわかりませんでした。――

こうした出来事は、他にもいくつかありました。前に申し落としましたが、地獄変の屏風を描けという命令があったのは秋の初めでした。それ以来、冬の終わりまで、良秀の弟子たちは常に師匠の怪しげな振る舞いに脅かされていたのです。しかし、その冬の終わりに良秀が屏風の画で自由にならなかったのか、それまで以上に彼の様子は陰気になり、言葉も荒々しくなっていきました。同時に、屏風の画も下絵が八分通り出来上がったまま、進展が見られませんでした。いや、時には今まで描いた部分すら塗り消してしまいそうな気配すらありました。

その一方で、屏風の何が自由にならないのか、それは誰にもわかりませんでした。また、誰もそれを理解しようとはしなかったのです。前の出来事に懲りていた弟子たちは、まるで虎と狼が同じ檻にいるような気持ちで、以後は師匠の周りにはできるだけ近づかないように心掛けていました。