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六〜八

作 芥川龍之介

地獄変の屏風を思い浮かべると、私はあの恐ろしい光景が、まるで目の前に広がっているかのように感じます。

同じ地獄変でも、良秀が描いたものは、他の絵師の作品とはまったく異なります。屏風の片隅には小さく十王とその眷属たちが描かれ、残りの部分は紅蓮の炎が渦巻いています。その火の勢いは、まるで剣山や刀の木々が焼き尽くされるかのようです。唐風の冥官たちの衣装は、点々と黄や藍の色をまとっていますが、周囲は烈火の色に染まっています。その中を、墨を飛ばしたような黒煙と金粉を舞い上がらせる火の粉が、狂ったように舞っています。

これだけでも人々の目を驚かせる力強さがありますが、さらに業火に焼かれ、苦しむ罪人たちの姿は、一般的な地獄絵とはまったく異なります。良秀は、この多くの罪人の中に、月卿や雲客から乞食や非人まで、あらゆる身分の人々を描き込んでいるのです。束帯をまとった厳かな殿上人、五つ衣を着た優雅な青女房、珠数を持った念仏僧、高足駄を履いた侍学生、細長の衣を着た女の子、幣を持った陰陽師――数え上げればきりがありません。様々な人々が、火と煙の中で牛頭馬頭の獄卒に虐げられ、強風に吹き散らされる落ち葉のように、四方八方へ逃げ惑っています。髪を鋼叉に絡められ、蜘蛛のように手足を縮めている女は、神巫の類かもしれません。手矛に胸を刺され、蝙蝠のように逆さまになった男は、生受領に違いないでしょう。そのほかにも、鉄の笞で打たれる者や、千曳の岩に押しつぶされる者、怪鳥の嘴にかけられる者、毒龍の顎に噛まれる者――罪人の数だけ、苦しみの形は様々です。

その中でも特に目立つのは、まるで獣の牙のような刀樹の頂きをかすめる一輛の牛車です。地獄の風に吹き上げられたその車の簾の中には、女御や更衣に似た華やかな装いの女房が、黒髪を炎の中でなびかせ、白い首を反らせながら悶え苦しんでいます。その女房の姿も、燃え盛る牛車も、炎熱地獄の責苦を感じさせるものはありません。広い画面の恐ろしさが、この一人の人物に凝縮されているかのようです。この光景を目にした者は、耳の奥に物凄い叫び声が響いてくるのを感じることでしょう。まさに入神の出来栄えです。

ああ、これが描かれるために、あの恐ろしい出来事が起こったのです。良秀は、この屏風の絵を仕上げるために、命さえも捨てるような無惨な目に遭いました。この絵の地獄は、良秀自身がいつか落ちていく地獄だったのです。

私はあの珍しい地獄変の屏風について話すあまり、話の順序が前後してしまったかもしれません。しかし、これからは大殿様から地獄絵を描くように命じられた良秀のことに移りましょう。

良秀はその後、五六ヶ月の間、まったく御邸に顔を出さず、屏風の絵に没頭していました。あれほど子煩悩な彼が、絵を描く段になると、娘の顔を見る気もなくなるのですから、不思議なことです。先ほど申し上げた弟子の話によれば、良秀は仕事に取り掛かると、まるで狐に憑かれたようになるそうです。実際、当時の噂では、良秀が画道で名を成したのは福徳の大神に祈りを捧げたからで、その証拠に、彼が絵を描いているところを物陰から覗くと、霊狐の姿が前後左右に群がっているのが見えると言われていました。そのため、画筆を取ると、絵を描き上げること以外は何も考えられなくなってしまうのです。昼も夜も一室に閉じこもり、滅多に外に出ることもありませんでした。特に地獄変の屏風を描いているときは、その夢中ぶりがひどかったようです。

良秀が昼も夜も部屋の中で、燈台の火の下で秘密の絵の具を調合したり、弟子たちに水干や狩衣を着せて、その姿を一人ずつ丁寧に写したりするのではありません。それくらいの変わったことは、地獄変の屏風を描かなくても、仕事に取り掛かるときにはいつでもできる男です。実際、龍蓋寺の五趣生死の図を描いたときなどは、普通の人なら避けるような道端の屍骸の前に悠然と腰を下ろし、半ば腐りかけた顔や手足を、髪の毛一本も違わずに写してしまったことがありました。それでは、彼の夢中ぶりとは一体どういうことか、さすがに分からない方もいらっしゃるでしょう。詳しいことをお話しする暇もありませんが、主な話をお聞かせしますと、大体こういう次第なのです。

良秀の弟子の一人が、ある日絵の具を溶いていると、急に師匠がやってきて言いました。「少し昼寝をしようと思うが、最近は夢見が悪い。」と。別に珍しいことでもないので、弟子は手を休めずに、「そうですか」と一通りの挨拶をしました。しかし、良秀はいつになく寂しそうな顔をして、「その間、枕元に座っていてほしい」と遠慮がちに頼みました。弟子は、師匠が夢を気にするのは不思議だと思いましたが、それも特に気にすることではありませんでした。

「よろしいです。」と弟子が言うと、師匠はまだ心配そうに、

「では、すぐに奥へ来てくれ。ただし、後で外の弟子が来ても、君が寝ているところには入れないように。」と、ためらいながら言い付けました。奥というのは、あの男が絵を描く部屋のことで、その日も夜のように戸を閉め切った中に、ぼんやりと灯りをともした状態で、まだ焼筆で図取りだけしかできていない屏風が、ぐるりと立てられていたそうです。

さて、ここに来ると、良秀は肘を枕にして、まるで疲れ切った人間のように、すやすやと眠りに落ちてしまいました。しかし、ものの半時も経たないうちに、枕元にいる弟子の耳には、何とも言えない気味の悪い声が聞こえ始めました。

それが最初はただの声でしたが、しばらくすると、次第に切れ切れな言葉になり、言うなれば溺れかけた人間が水の中で呻くようなことを言い出したのです。

「なに、自分に来いと言うのか。――どこへ――どこへ来いと? 奈落へ来い。炎熱地獄へ来い。――誰だ。そう言う貴様は。――貴様は誰だ――誰だと思ったら」

弟子は思わず絵の具を溶く手を止め、恐る恐る師匠の顔を覗き込むと、皺だらけの顔が白くなり、大粒の汗を滲ませながら、唇の乾いた、歯の疎な口を喘ぐように大きく開けていました。そして、その口の中で何か糸でも引っ張っているかのように、目まぐるしく動くものがあると思ったら、それがあの男の舌だったのです。切れ切れの言葉はもちろん、その舌から出てくるものでした。

「誰だと思ったら――うん、貴様だな。自分も貴様だろうと思っていた。なに、迎えに来たと? だから来い。奈落へ来い。奈落には――奈落には自分の娘が待っている。」

その時、弟子の目には、朦朧とした異形の影が、屏風の面をかすめてむらむらと降りてくるように見えたほど、気味の悪い気持ちがしました。もちろん弟子はすぐに良秀に手をかけて、力の限り揺り起こしましたが、師匠はなお夢の中で独り語り続け、容易に目を覚ます気配はありません。そこで弟子は思い切って、側にあった筆洗の水を、ざぶりとあの男の顔に浴びせかけました。

「待っているから、この車に乗って来い――この車に乗って、奈落へ来い――」という言葉が、それと同時に喉を締められるような呻き声に変わったと思うと、やっと良秀は目を開け、針で刺されたよりも慌しく、矢庭にそこへ飛び起きましたが、まだ夢の中の異形が、その後を去らないようでした。しばらくはただ恐ろしそうな目つきをして、大きく口を開けながら空を見つめていましたが、やがて我に返った様子で、

「もういいから、あちらへ行ってくれ」と、今度は実に素っ気なく言い付けました。弟子はこういう時に逆らうと、いつでも小言を言われるので、急いで師匠の部屋から出て行きましたが、まだ明るい外の日の光を見た時には、まるで自分が悪夢から覚めたような、ほっとした気持ちになったと言っていました。

しかし、これなどはまだ良い方で、その後一月ほど経ってから、今度はまた別の弟子が、わざわざ奥へ呼ばれると、良秀はやはり薄暗い油火の光の中で、絵筆を噛んでいましたが、いきなり弟子の方へ向き直って、

「御苦労だが、また裸になってもらおうか。」と言うのです。これはその時までにも、どうかすると師匠が言い付けたことですから、弟子はすぐに衣類を脱ぎ捨てて赤裸になりましたが、あの男は妙に顔をしかめながら、

「私は鎖で縛られた人間が見たいと思うのだが、気の毒でも少しの間、私の言う通りになってくれないか。」と、その癖少しも気の毒らしい様子を見せずに、冷然とこう言いました。元々この弟子は画筆を握るよりも、太刀を持った方が似合いそうな、逞しい若者でしたが、これには流石に驚いたようで、後々までその時の話をすると、「これは師匠が気が狂って、私を殺すのではないかと思いました」と繰り返して言ったそうです。しかし、良秀の方では、相手の愚図愚図しているのが、苛立ってきたのでしょう。どこから出したのか、細い鉄の鎖をざらざらと手繰りながら、ほとんど飛びつくような勢いで、弟子の背中に乗りかかると、否応なしにそのまま両腕を捻じ上げて、ぐるぐる巻きにしてしまいました。そしてまたその鎖の端を邪慳にぐいと引きましたから、たまりません。弟子の体は弾みを食って、勢よく床を鳴らしながら、ごろりとそこへ横倒しに倒れてしまったのです。