九 ジョバンニの切符 (2/3) (2)
作 宮沢賢治
「あの向こうで、今も笛を吹いているのかな?」
「今、海に行っているよ。」
「ダメよ。もう海から上がってきたの。」
「そうそう、僕は知っているよ。お話ししよう。」
川の向こう岸が急に赤く染まりました。楊の木やその他のものが黒く浮かび上がり、見えない天の川の波も、時折針のように赤く光りました。向こう岸の野原には大きな真っ赤な火が燃え上がり、その黒い煙は高く、冷たそうな桔梗色の空を焦がしそうでした。その火は、ルビーよりも赤く透き通り、リチウムよりも美しく酔ったように燃えていました。
「あれは何の火だろう?あんなに赤く光る火は、何を燃やせばできるんだろう?」とジョバンニが言いました。
「蠍の火だよ。」カムパネルラは地図を見ながら答えました。
「ああ、蠍の火のことなら私も知っているわ。」
「蠍の火って何?」とジョバンニが尋ねました。
「蠍が焼けて死んだのよ。その火が今でも燃えているって、お父さんから何度も聞いたわ。」
「蠍って、虫だよね。」
「ええ、蠍は虫よ。でも、いい虫なの。」
「蠍はいい虫じゃないよ。博物館でアルコールに浸かっているのを見たことがある。尾にこんな針があって、それで刺されると死ぬって先生が言ってた。」
「そうよ。でも、いい虫なの。お父さんがこう言ったの。昔、バルドラの野原に一匹の蠍がいて、小さな虫を殺して食べて生きていたんだって。ある日、イタチに見つかって食べられそうになったの。蠍は一生懸命に逃げたけど、とうとうイタチに捕まえられそうになった。そのとき、前に井戸があって、そこに落ちてしまったの。もうどうしても上がれなくて、蠍は溺れ始めたのよ。そのとき、蠍はこう言ってお祈りしたというの。
『ああ、私は今までいくつの命を奪ったかわからない。そして、私が今度イタチに捕まるときは、あんなに一生懸命に逃げた。それでもとうとうこんなになってしまった。ああ、何もあてにならない。どうして私は自分の体を、黙ってイタチに渡してしまわなかったのだろう。そうすればイタチも一日生き延びただろうに。どうか神様、私の心をご覧ください。こんなにむなしく命を捨てず、どうかこの次には、みんなの幸せのために私の体をお使いください。』と言ったそうよ。
そしたら、いつか蠍は自分の体が真っ赤な美しい火になって燃え、夜の闇を照らしているのを見たって。今でも燃えているってお父さんが言ったわ。本当にあの火、それだわ。」
「そうだ。見てごらん。あそこにある三角の標識はちょうど蠍の形になっているよ。」
ジョバンニは、その大きな火の向こうに三つの三角の標識が、ちょうど蠍の腕のように並んでいるのを見ました。そして、こちらには五つの三角の標識が、蠍の尾や針のように並んでいました。本当にその真っ赤な美しい蠍の火は、音もなく明るく燃えていました。
その火がだんだん後ろの方に移るにつれて、みんなは何とも言えない賑やかな、さまざまな楽器の音や草花の香りのようなもの、口笛や人々のざわめきの声を聞きました。それはもうすぐ近くに町があって、そこにお祭りでもあるような気がしました。
「ケンタウル祭が始まるよ!」突然、今まで眠っていたジョバンニの隣の男の子が窓の外を見ながら叫びました。
ああ、そこにはクリスマスツリーのように真っ青な唐檜やもみの木が立っていて、その中にはたくさんの豆電灯が、まるで千の蛍が集まったようについていました。
「ああ、そうだ、今夜はケンタウル祭だね。」
「ああ、ここはケンタウルの村だよ。」カムパネルラがすぐに言いました。
「ボール投げなら、僕は絶対に外さない。」男の子が自信満々に言いました。
「もうすぐサウザンクロスだ。降りる準備をして。」青年がみんなに言いました。
「僕、もう少し汽車に乗っていたいんだ。」男の子が言いました。
カムパネルラの隣の女の子はそわそわと立ち上がり、準備を始めましたが、やっぱりジョバンニたちと別れたくないようでした。
「ここで降りなければならないのです。」青年はきちんと口を結び、男の子を見下ろしながら言いました。
「いやだ。僕はもう少し汽車に乗ってから行くんだ。」
ジョバンニは我慢できずに言いました。「僕たちと一緒に乗って行こう。僕たちはどこまででも行ける切符を持っているんだ。」
「でも、私たちはもうここで降りなければならないのよ。ここは天上へ行くところなんだから。」女の子が寂しそうに言いました。
「天上へなんか行かなくてもいいじゃないか。僕たちはここで天上よりももっといいところを作らなきゃいけないって、僕の先生が言ったよ。」
「だって、お母さんも行ってらっしゃるし、それに神様がおっしゃるのよ。」
「そんな神様は嘘の神様だ。」
「あなたの神様が嘘の神様よ。」
「そうじゃないよ。」
「あなたの神様って、どんな神様ですか?」青年は笑いながら言いました。
「僕は本当はよく知らない。でも、そんなのじゃなくて、本当のたった一人の神様です。」
「本当の神様はもちろんたった一人です。」
「ああ、そんなのじゃなくて、たった一人の本当の本当の神様です。」
「だからそうじゃありませんか。私はあなた方がいずれその本当の神様の前に、私たちとお会いになることを祈ります。」青年は静かに両手を組みました。
女の子も同じようにしました。みんな本当に別れが惜しそうで、その顔色も少し青ざめて見えました。ジョバンニは危うく声を上げて泣き出しそうになりました。
「さあ、もう準備はいいですか?すぐサウザンクロスですから。」
ああ、その瞬間でした。見えない天の川のずっと川下に、青やオレンジ、そして様々な光でちりばめられた十字架が、まるで一本の木のように川の中から立ち上がり、輝いていました。その上には青白い雲が丸い環のようにかかり、後光のように見えました。汽車の中はざわざわとした雰囲気に包まれ、みんなが北の十字架の時のようにまっすぐに立ち上がり、お祈りを始めました。あちらこちらからは、子供が瓜に飛びついたときのような喜びの声や、なんとも言えない深い、つつましいため息の音が聞こえてきました。そして、徐々に十字架は窓の正面に近づき、あの苹果の肉のような青白い環の雲も、ゆっくりと渦を巻いているのが見えました。
「ハレルヤ、ハレルヤ」と、明るく楽しい声が響き渡り、みんなはその空の遠くから、冷たい空の向こうから、透き通ったなんとも言えない爽やかなラッパの音を聞きました。そして、たくさんの信号や電灯の明かりの中を、汽車はだんだんとゆっくりになり、とうとう十字架の真向かいに行って、完全に止まりました。
「さあ、降りるよ」と、青年は男の子の手を引き、姉は互いに襟や肩を直しながら、徐々に向こうの出口の方へ歩き出しました。
「じゃあ、さよなら」と、女の子が振り返って二人に言いました。
「さよなら」と、ジョバンニは泣き出したいのをこらえているかのように、ぶっきらぼうに答えました。
女の子は辛そうに目を大きく見開き、もう一度こちらを振り返ってから、何も言わずに出て行ってしまいました。汽車の中はもう半分以上が空いてしまい、急にがらんとして寂しくなり、風が吹き込んできました。
そして、見ていると、みんなはつつましく列を作り、あの十字架の前の天の川の岸にひざまずいていました。その見えない天の川の水を渡って、一人の輝かしい白い存在が手を伸ばしてこちらに来るのを、二人は見ました。しかし、その時にはもう硝子の呼び子が鳴り、汽車は動き出しました。気がつくと、銀色の霧が川下からすうっと流れてきて、もうそちらは何も見えなくなりました。ただたくさんのくるみの木が葉を輝かせ、その霧の中に立っていて、黄金の光を持った電気栗鼠が可愛い顔をちらちらと覗かせているだけでした。
その時、霧が少し晴れかかりました。どこかへ行く街道のように、小さな電灯が一列に並んだ通りがありました。それはしばらく線路に沿って進んでいました。そして、二人がその明かりの前を通り過ぎると、その小さな豆色の火はちょうど挨拶でもするようにぽかっと消え、二人が通り過ぎるとまた点灯しました。
振り返って見ると、さっきの十字架はすっかり小さくなり、本当に胸に吊るされそうになりました。さっきの女の子や青年たちがその前の白い岸にまだひざまずいているのか、それともどこか分からない天上へ行ってしまったのか、ぼんやりとして見分けがつきませんでした。
ジョバンニは、ああ、と深く息をつきました。
「カムパネルラ、また僕たち二人きりになったね。どこまでもどこまでも一緒に行こう。僕はもう、あのさそりのように、本当にみんなの幸せのためなら、僕の体なんか百回でも焼かれても構わない」
「うん。僕だってそうだ」と、カムパネルラの目にはきれいな涙が浮かんでいました。
「でも、本当の幸せって一体何だろう」と、ジョバンニが言いました。
「僕には分からない」と、カムパネルラがぼんやりと答えました。
「僕たち、しっかりやろうね」と、ジョバンニは胸いっぱいに新しい力が湧くように、ふうと息をしながら言いました。
「あ、あそこに石炭袋だよ。あれが空の孔だよ」と、カムパネルラが少しそちらを避けるようにしながら天の川の一部分を指さしました。
ジョバンニはそちらを見て、まるでぎくっとしてしまいました。天の川の一部分に大きな真っ暗な孔が、どおんと開いているのです。その底がどれほど深いのか、その奥に何があるのか、いくら目をこすって覗いても何も見えず、ただ目がしんしんと痛むだけでした。ジョバンニが言いました。
「僕はもうあんな大きな暗闇でも怖くない。きっとみんなの本当の幸せを探しに行く。どこまでもどこまでも僕たち一緒に進んで行こう」
「ああ、きっと行くよ。ああ、あそこにある野原はなんてきれいなんだろう。みんな集まってるね。あそこが本当の天上なんだ。あっ、あそこにいるのは僕のお母さんだよ」と、カムパネルラは急に窓の遠くに見える美しい野原を指して叫びました。
ジョバンニもそちらを見ましたが、そこはぼんやりと白く煙っているばかりで、どうしてもカムパネルラが言ったようには見えませんでした。
なんとも言えず寂しい気持ちがして、ぼんやりとそちらを見ていると、向こうの河岸に二本の電信柱が、ちょうど両方から腕を組んだように赤い腕木を並べて立っていました。
「カムパネルラ、僕たち一緒に行こうね」と、ジョバンニがこう言いながら振り返って見ると、今までカムパネルラが座っていた席には、もうカムパネルラの姿は見えず、ただ黒いビロードのように光っているだけでした。