九 ジョバンニの切符 (2/3) (1)
作 宮沢賢治
ジョバンニが見ていると、その男はしきりに赤い旗を振っていました。しかし、突然赤旗を下ろし、後ろに隠すようにして青い旗を高く掲げ、まるでオーケストラの指揮者のように激しく振りました。すると、空中に雨のような音が響き、何か暗いものがいくつも、まるで鉄砲丸のように川の向こうへ飛んでいきました。ジョバンニは思わず窓から体を半分出して、その光景を見上げました。美しい桔梗色の空の下、何万という小さな鳥たちが、次々とせわしなく鳴きながら飛んでいくのが見えました。
「鳥が飛んでいくな」と、ジョバンニが窓の外で呟きました。
「ほんとだ」と、カムパネルラも空を見上げました。
その時、あのやぐらの上にいる男が再び赤い旗を振り回しました。すると、鳥の群れはぴたりと飛ばなくなり、同時に川下の方で「ぴしゃあん」という潰れたような音が響きました。その後、しばらく静寂が続きましたが、赤帽の信号手が再び青い旗を振り上げて叫びました。
「今こそ渡れ、渡り鳥、今こそ渡れ、渡り鳥!」その声ははっきりと聞こえました。
それに合わせて、また何万という鳥の群れが真っ直ぐに空を駆け抜けていきました。窓から顔を出していた女の子が、美しい頬を輝かせながら空を仰ぎました。
「まあ、この鳥、たくさんですわね。あらまあ、空のきれいなこと!」女の子はジョバンニに話しかけましたが、ジョバンニは生意気だと思いながらも、黙って空を見上げていました。女の子は小さく息をつき、静かに席へ戻りました。カムパネルラは、少し気の毒そうに窓から顔を引っ込めて地図を見ていました。
「あの人、鳥に教えているんでしょうか?」女の子がそっとカムパネルラに尋ねました。
「渡り鳥に信号を送っているんだ。きっとどこかからのろしが上がるためだろう」と、カムパネルラは少し不安そうに答えました。そして、車の中は再び静まり返りました。ジョバンニはもう頭を引っ込めたかったのですが、明るいところに顔を出すのが辛くて、黙って耐えてそのまま立って口笛を吹いていました。
(どうして僕はこんなに悲しいのだろう。もっと心をきれいに大きく持たなければならない。あの岸のずっと向こうに、まるで煙のような小さな青い火が見える。あれは本当に静かで冷たい。あれをよく見て、心を落ち着けるんだ)
ジョバンニは熱くて痛い頭を両手で押さえながら、その方を見ました。
(ああ、本当にどこまでも一緒に行く人はいないのだろうか。カムパネルラだって、あんな女の子と楽しそうに話しているし、僕は本当に辛いなあ)
ジョバンニの目は再び涙でいっぱいになり、天の川もまるで遠くに行ったようにぼんやりと白く見えるだけでした。
その時、汽車はだんだん川から離れ、崖の上を通るようになりました。向こう岸もまた黒い崖が川の岸を下流に下るにつれて、だんだん高くなっていきました。そしてちらっと大きなとうもろこしの木が見えました。その葉はぐるぐるに縮れ、下には美しい緑色の大きな苞が赤い毛を吐き、真珠のような実もちらっと見えました。それはだんだん数を増し、今や崖と線路の間に列を作っていました。思わずジョバンニが窓から顔を引っ込めて向こう側の窓を見たとき、美しい空の野原の地平線の果てまで、その大きなとうもろこしの木がほとんど一面に植えられ、さやさやと風に揺れ、その立派なちぢれた葉の先からは、まるで昼の間にたくさんの日光を吸った金剛石のように露がいっぱいについて、赤や緑やきらきらと燃えて光っていました。カムパネルラが、
「あれはとうもろこしだね」とジョバンニに言いましたが、ジョバンニはどうしても気持ちが治らず、ただぶっきらぼうに野原を見たまま、
「そうだろう」と答えました。
その時、汽車はだんだん静かになり、いくつかの信号と電灯を過ぎ、小さな停車場に止まりました。
正面の青白い時計は、きっかりと二時を示し、風もなくなり汽車も動かず、静かな静かな野原の中でその振り子はカチッカチッと正しく時を刻んでいきました。
そして、その振り子の音の合間から、遠くの野原の果てからかすかな旋律が糸のように流れてきました。
「新世界交響楽だわ」と、向こうの席の姉が独り言のようにこちらを見ながら静かに言いました。
本当に、車の中ではあの黒服の丈高い青年も、誰もみんな優しい夢を見ているようでした。
(こんな静かな良いところで、どうしてもっと愉快になれないのだろう。どうしてこんなに一人寂しいのだろう。でも、カムパネルラなんか本当にひどい。僕と一緒に汽車に乗っていながら、まるであんな女の子とばかり話しているんだもの。僕は本当に辛い)
ジョバンニはまた手で顔を半分隠すようにして、向こうの窓の外を見つめていました。
透き通ったような笛の音が鳴り、汽車は静かに動き出しました。カムパネルラも寂しそうに星めぐりの口笛を吹きました。
「ええ、ええ、もうこの辺はひどい高原ですから」と、後ろの方で誰かが、今目が覚めたようにハキハキと話している声が聞こえました。
「とうもろこしだって、棒で二尺も孔をあけておいて、そこへ播かないとはえないんです」
「そうですか。川まではよほどありましょうかねえ」
「ええ、ええ、川までは二千尺から六千尺あります。もうまるでひどい峡谷になっているんです」
そうそう、ここはコロラドの高原じゃなかったろうか。ジョバンニは思わずそう考えました。
あの姉は、弟を自分の胸に寄りかからせて眠らせながら、黒い瞳をうっとりと遠くに投げて、何を見ているのか考え込んでいた。カムパネルラはまだ寂しそうに一人で口笛を吹き、男の子はまるで絹で包まれた苹果のような顔色をして、ジョバンニの方を見ていた。
突然、とうもろこしが消え、広大な黒い野原が目の前に広がった。
新世界交響楽が、地平線の彼方からはっきりと湧き上がり、その真っ黒な野原の中を一人のインディアンが白い鳥の羽根を頭に飾り、たくさんの石を腕と胸にかざり、小さな弓に矢をつがえて、一目散に汽車を追いかけて来た。
「見て、インディアンだ!インディアンがいるよ。お姉さま、見てください!」
黒服の青年も目を覚ました。
ジョバンニもカムパネルラも立ち上がった。
「走って来るわ、あら、走って来るわ。追いかけているんでしょう?」
「いいえ、汽車を追っているんじゃないんですよ。猟をするか、踊るかしているんですよ」と青年は言った。まるで今どこにいるのか忘れたかのように、ポケットに手を入れて立ちながら。
実際、インディアンは半分は踊っているようだった。足の踏み方がもっと経済的で、本気になれそうだった。突然、白い羽根が前方に倒れ、インディアンはぴたっと立ち止まり、素早く弓を空に引いた。すると、一羽の鶴がふらふらと落ちてきて、再び走り出したインディアンの大きく広げた両手に落ちた。インディアンは嬉しそうに立ち、笑った。そして、その鶴を持ってこちらを見ている影も、どんどん小さく遠くなり、電信柱の碍子がきらきらと光り、再びとうもろこしの林に戻ってしまった。こちら側の窓を見ると、汽車は本当に高い崖の上を走っていて、その谷の底には川が明るく流れていた。
「ええ、もうこの辺から下りです。今度は一気にあの水面まで降りて行くんですから、容易じゃありません。この傾斜があるから、汽車は決して向こうからこちらへは来ないんです。ほら、もうだんだん早くなったでしょう」と、さっきの老人のような声が言った。
汽車はどんどん降りて行った。崖の端に鉄道がかかると、川が明るく下にのぞけた。ジョバンニはだんだん心が明るくなってきた。汽車が小さな小屋の前を通り、その前にしょんぼりと一人の子供が立ってこちらを見ているとき、思わず「ほう」と叫んでしまった。
汽車はどんどん走り続けた。室内の人たちは半分後ろの方に倒れるようになりながら、しっかりと腰掛けにしがみついていた。ジョバンニは思わずカムパネルラと笑った。そして、天の川は汽車のすぐ横を、今までずっと激しく流れてきたらしく、時々ちらちらと光りながら流れていた。薄赤い河原なでしこの花があちこちに咲いていた。汽車はようやく落ち着いたようにゆっくりと走っていた。
向こう岸とこちら岸には、星の形とつるはしを描いた旗が立っていた。
「あれは何の旗だろうね?」ジョバンニがやっと口を開いた。
「さあ、わからないねえ。地図にもないんだもの。鉄の舟が置いてあるねえ」と誰かが言った。
「ああ」とジョバンニが答えた。
「橋を架けるところじゃないんでしょうか?」女の子が言った。
「ああ、あれは工兵の旗だねえ。架橋演習をしてるんだ。でも兵隊の姿が見えないねえ」と青年が続けた。
その時、向こう岸近くの少し下流の方で、見えない天の川の水がぎらっと光り、柱のように高くはねあがり、どおっと激しい音が響いた。
「発破だよ、発破だよ!」カムパネルラは跳び上がった。
その柱のようになった水は見えなくなり、大きな鮭や鱒がきらきらと白く腹を光らせて空中に放り出され、丸い輪を描いてまた水に落ちた。ジョバンニはもう跳び上がりたいくらい気持ちが軽くなり、「空の工兵大隊だ。どうだ、鱒なんかがこんなに跳ね上げられたねえ。こんな愉快な旅はしたことがない。いいねえ」と言った。
「あの鱒なら近くで見たらこれくらいあるねえ。たくさん魚がいるんだな、この水の中に」と男の子が言った。
「小さなお魚もいるんでしょうか?」女の子が興味を持って尋ねた。
「いるでしょう。大きなのがいるんだから小さいのもいるでしょう。でも遠くだから、今は小さいのが見えなかったねえ」とジョバンニはすっかり機嫌が直って楽しそうに笑いながら女の子に答えた。
「あれ、きっと双子のお星さまのお宮だよ!」男の子が突然窓の外を指さして叫んだ。
右手の低い丘の上に、小さな水晶でできたような二つのお宮が並んで立っていた。
「双子のお星さまのお宮って何だい?」とジョバンニが尋ねた。
「あたし、前に何度もお母さんから聞いたわ。ちゃんと小さな水晶のお宮で二つ並んでいるから、きっとそうだわ」と女の子が答えた。
「話してごらん。双子のお星さまが何をしたっての?」
「ぼくも知ってるよ。双子のお星さまが野原へ遊びに出て、カラスと喧嘩したんだろう」と男の子が言った。
「そうじゃないよ。あのね、天の川の岸で、お母さんが話していたんだ……」
「それから彗星がギーギーフーギーギーフーって言って来たねえ」と男の子が続けた。
「いやだわ、たあちゃん、そうじゃないわよ。それは別の話だわ」と女の子が反論した。