第1話
作 제이여라 · 2026-10-28
01.
クリスは作為的な人物だった。彼の住処となった名前のない村でも、彼の存在はまるで白い紙の上に押された黒い点のように際立っていた。彼の存在は黒髪であどけない外見とは裏腹に、卓越した才能と技術で村を変えた。文字を知らなかった村人たちは彼のおかげで文字を読むようになり、村に名前まで付けることになった。いつか村の村長が彼に正体を尋ねたとき、クリスはこう答えた。
「私が誰かは、私もよくわかりません。思い出せるのは名前だけです。」
見た目はただ目つきが鋭い黒い子猫のような彼は、そのおかげで村の中では最大の疑問だった。単に首都圏に住んでいて事故に遭い村に入ってきた旅人だと言う人もいれば、新しく変わった政府から送られた刺客だという話もあった。あるいは猫が人間に変わって現れたという話も……。とにかくクリスが通り過ぎると、人々はお互いに集まってささやいていた。
「誰であろうと、何が重要なの?私はいいけど?幸せになったなら、何でも構わないじゃない?」
レベッカはクリスの肩を強く叩いた。彼女は行くところがなかったクリスを喜んで引き取った人だった。彼女は孤児院の先生出身で、行くところを失った子供たちを引き取って育てていた。クリスもそんな子供の一人であり、彼女の養子になった。レベッカにはもう一人の養娘がいたが、その名前はセラで、長くてさらさらした黒髪が特徴の子だった。クリスとセラはぎこちない兄妹のようだった。二人が食卓でご飯を食べるときは、何の言葉も出ないほどだった。しかし、レベッカは二人を誇りに思いながら育てた。
木の葉の色が変わること二度、枝には花が蕾をほころばせた。丸い丘の上で、クリスは舞い落ちる花びらに手を伸ばした。その隣では、セラが編み物をしていた。彼女の手が針の上で交差する。二人の間に言葉はなかった。気まずいというには曖昧な沈黙が、慣れたように二人を包み込んだ。
「……またそんなことしてるのね」
意外にも沈黙を破ったのはセラだった。セラは細く目を開けたままクリスを見つめた。クリスはぼんやりとした顔でセラの方に首を向けた。
「意外だな。君が先に話しかけてくるとは思わなかった」
「先に私についてきたのはあなたでしょ。話しかけないと気が済まないわ。それで、何してるの?」
「花びらの雨に打たれると、いつも春が来たって実感するんだ。その感じが好きで」
「記憶もないくせにいつも?」
セラは深いため息をついた。白い指先に絡まった糸が、次第に何かの形を帯びていく。クリスはゆっくりと顔を上げ、絡まった毛糸玉を見つめた。
「それは何の模様?初めて編むんじゃない?」
セラは横目で彼を見ながら答えた。
「そうよ。ただ頭に浮かんだから。それにしても、あなた詩人になれるわね」
「まだ君の世界が狭いだけだよ。僕より上手な人なんてたくさんいるだろう?君だって上手じゃないか。特に怒鳴るの」
「はいはい、一言も負けないわね」
セラは編み糸を持って席を立った。遠くでレベッカが手を振っていた。
「今日はジャガイモでスープを作ってみたの。私の腕前知ってるでしょ?すごく期待してていいわよ!」
食卓に並んで座った二人は、順番にスープを受け取った。器の向こうでスープが揺れる。スプーンを手にゆっくりと食べ始めたクリスは、思わずスプーンを置いた。何か胸の中でざわめいた。
「クリス、どうしたの?美味しくない?」
レベッカがクリスに近づき、額に手を置いた。
「熱はないけど、食欲がないの?」
「ただ」
「ただ?」
「だから……」
セラは顔をしかめながら、ゆっくりとスープを口に入れた。
「うん」
セラの瞳孔がゆっくりと開いた。
「美味しくない。昨日と同じ味ね」
「え?」
レベッカはゆっくりと彼の前に置かれたスープの器を持ち上げた。クリスの視線がスープを追った。
「大丈夫よ、また作ればいいわ」
クリスは何も答えずに部屋に入っていった。レベッカはクリスの後ろ姿を見つめ、ゆっくりとセラの器も持ち上げた。セラが言った。
「私も部屋に行くわ。編み物が残ってるから」
「いいわ。今度はママのマフラー、最後まで編んでくれるんでしょ?」
「当然でしょ、私が誰だと思ってるの」
セラは微笑んだ。そして言葉を付け加えた。
「そういえば、あの夢のことなんだけど」
その様子を笑顔で見つめていたレベッカの顔が、一瞬にして冷たくなった。セラが言った。
「昨日も見たわ。クリスも見たって。夢見師でも呼ばなきゃいけないんじゃない?」
血の気のない顔でレベッカは彼女を見つめ、静かに笑った。
「心配しないで。ママが何でもできるから」
そう言ってセラを見送ったレベッカは、ゆっくりと台所にある物置に入っていった。物置の隅に置かれた鏡を一つ持ち上げたレベッカは、鏡をトントンと叩いた。鏡の表面が揺らめいた。レベッカはごく小さな声で鏡を少し傾けた。
「変化が起きています」
ごく小さな囁きが床を転がった。
*
ベッドに横たわると、天井が夜空のように高かった。クリスは胸をトントンと叩き、ざわめく胃を落ち着かせようと努めた。何かが引っかかったように飲み込めず、同時に腹はゴロゴロと鳴り続けた。
「今日一日中寝てただけなのに」
花粉でも吸い込んだのだろうか。それとも胃に問題が起きたのだろうか。あるいは、それとは系統の異なる問題が起きたのだろうか。彼はゆっくりとその形を感じ取ろうと目を閉じた。何か腹の中から上がってこようとしているようだった。トイレに行って吐いてみたが、空腹の胃からは何も出てこなかった。
再びベッドに横たわった。静かな寂寞がクリスの周りを漂った。眠いようでもあった。クリスは布団を引き寄せてかぶり、ゆっくりと目を閉じた。何かにゆっくりと吸い込まれていくような感覚がした。眠りに落ちる前、いつも感じる奇妙な感覚だった。その間に何かがゆっくりと入ってきた。何かがすすり泣く声が聞こえた。
誰かがずっと泣いている。姿は見えないが、何か慣れ親しんだ感じがする。彼はうずくまって肩を震わせた。クリスはいつもその姿を見下ろしている。
「幽霊か。セラも最近見ると言ってたな」
理由でも聞いてみようか。そんな理由で彼の前でしゃがみ込んだ瞬間、再び柔らかな感覚がする。布団と枕。そして湿った目元。そして呟く一言。
「忘れろ」
あのスープのように、何か固く絡み合い、噛み砕けないものがずっと転がっているようだった。がらんとした部屋。クリスはゆっくりと髪をねじった。
「よく眠れた?二人ともいい夢見た?」
皿洗いをしていたレベッカがウィンクした。セラとクリスはゆっくりと互いを見つめ合った。二人とも一晩中寝返りを打ったのか、髪がひどく乱れていた。鏡を見たセラが悲鳴を上げながら呟いた。
「私は原因を探さなきゃ」
「原因?」
セラは髪を指に絡ませた。
「夢よ。またあの夢。腹が立って我慢できないわ。調べなきゃ。それともあなたも手伝ってくれる?」
クリスは顔を上げた。
「夢で原因が見つかるかな?ただの夢なのに?意味を持たせれば違って見えるだろうけど」
「こんな変な夢ばかり見るのも限界よ。何かした方がいいんじゃない?夢見師もそのために存在するんでしょ。夢の中と現実を繋ぐ装置みたいなものじゃない」
「意外だな。夢見師のこと、君は信じてないようだったじゃないか。前に一度訪ねて行って、完全に失敗したって言ってたのに?」
「その話はやめてちょうだい」
「まあ、やることがないから一緒に調べてみようか」
そんなクリスの前に、一冊の本が投げつけられた。「これをまず読んでみて」セラが目配せで合図した。クリスは声に出して本のタイトルを読んだ。
「夢と異常現象……」
「うちのワンちゃんたち、早くご飯食べなさい。冷めちゃうわ」
「ママの美味しくないスープなら遠慮するわ。塩を入れすぎなんだから。それより原因を見つけたいの。でも、頑張るにはご飯を食べるのが正しいわね」
セラとクリスは再び食卓に座った。彼らの前にスープの入った器が置かれた。火の通っていないジャガイモ。過剰なほど塩辛いスープ。レベッカは特にこのスープを煮込むのが苦手だった。クリスは再びスプーンを握った。
「今回は初めて声が聞こえた」
「え?」
「……忘れろ、って声」
セラはゆっくりと瞬きした。
「不思議ね。私はずっとシルエットしか出てこないのに。声まで聞こえるの?」
「うん。妙な感じだ」
その瞬間、レベッカが顔を上げてクリスを見た。セラが叫んだ。
「ママ、手!」
「手?」
「切ったじゃない」
「ああ」
セラは急いで包帯を持ってきた。クリスが静かに尋ねた。
「どこで?」
「どこって、ただ夢の中よ。とても深くて暗い場所……」
「僕とはちょっと違うな」
包帯を巻きながらセラは続けた。「私はずっと後ろ姿しか見えないの。女なのか男なのかも分からないわ」
レベッカの揺れる瞳の中にクリスが映った。
「本当に夢見師を訪ねるべきかな?」
「そんなに気になるの?」
「うん。ものすごく泣いてるんだ。本当に悲しそうに……」
「夢がそんなに気になるの?」
セラの仕草を少し拒否し、レベッカはにっこり笑った。クリスとセラの視線がレベッカに注がれた。
「ママ?」
「ついてきなさい」
レベッカはゆっくりと書斎に入りながら手招きした。何かに導かれるように、クリスとセラはレベッカの影を追った。
「そういえば、書斎を見せるのは初めてね」
ぼんやりとした記憶が蘇った。レベッカの目に初めて留まった時、クリスは書斎に惹かれた。なぜかそこにいれば皆が楽になるような気がした。まるで母親の懐に入ったように。全てが良くなると信じられた。ただ、そんな気がしたのだ。
「だめよ」
その時、レベッカはそんなクリスを制止した。
「ずっと後で見せてあげるわ」
そんな言葉を最後に記憶が……。
「あれ?」
冷たいドアノブに手が触れた。慣れた重みがした。セラがクリスを見た。
「どうしたの?」
レベッカが頷いた。
「ええ、開けて入りなさい。セラも見てごらんなさい。二人で一緒に見て」
レベッカを通り過ぎて書斎に入ると、数えきれないほどの本が本棚に並んでいた。魔法に関する物語。古い新聞紙が乱雑に挟まっていた。クリスとセラは無意識に本のタイトルを読んだ。
「運命の信号」
「魔法の残像と呪文に関する物語」
「夢見師、彼らは誰なのか」
「これは653年の冊封式……。これは私も見たことがあるわ。もう14年前ね」
クリスの視線が本棚の下に向かった。鏡と一緒に飛び出た一冊の本が見えた。
「シホとウノ?」
クリスはゆっくりと本を持ち上げた。本はクリスの親指のように厚かった。セラがゆっくりとページをめくった。
「人々の写真ね」
「でも名前以外に何も書かれてない」
紙のページがめくられた。人の写真と名前、そして奇妙な数字が並んでいた。
「でもシホとウノって何なの?」
「僕もよく分からない。ただ……」
めくられていた紙が止まった。最後のページ。一人の写真が見えた。瞬間、引き裂かれるような感覚がした。頭痛が押し寄せた。何かがずっと頭の中で再生された。誰かの手の形、誰かの輝く装飾品、誰かの青い瞳。彼。
「クリス。大丈夫?」
そして頭痛とともに感じる温かい何かが目から流れ落ちた。手のひらで拭うと水だった。レベッカがよろめきながら唇をぎゅっと噛んだ。彼女がクリスの肩に手を置こうとした瞬間。
誰かが外で大声で叫んだ。
「侵入者だ!」
奇妙な平和を破って轟音が聞こえてきた。周囲がごちゃ混ぜになった。