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九 ジョバンニの切符 (1/3)

von 宮沢賢治

「もうここらは白鳥区の終わりです。見てください。あれが名高いアルビレオの観測所です。」

窓の外には、まるで花火が散らばったように、あまの川の真ん中に黒い大きな建物が四棟立っていました。その一つの平屋根の上には、目を引くような青い宝玉と黄色い宝玉の二つの透明な球が、静かに輪になってくるくると回っていました。黄色い球は徐々に向こうへ回り、青い小さい球がこちらに進んで来ます。まもなく二つの端が重なり合い、きれいな緑色の両面凸レンズの形を作り出しました。それがまた徐々に横にずれ、前のレンズの形を逆に繰り返し、やがてすっと離れて、サファイアは向こうへ回り、黄色い球はこちらへ進み、またちょうどさっきのような形になりました。銀河の、形も音もない水に囲まれて、本当にその黒い測候所が静かに横たわっているように見えました。

「あれは、水の速さを測る器械です。水も……」と鳥捕りが言いかけたその時、

「切符を拝見いたします」と、三人の席の横に赤い帽子をかぶった背の高い車掌が、いつの間にかまっすぐに立って言いました。鳥捕りは黙って隠しから小さな紙きれを取り出しました。車掌はそれをちょっと見て、すぐに目をそらし(あなた方のは?)というように、指を動かしながら、手をジョバンニたちの方へ差し出しました。

「さあ」とジョバンニは困ってもじもじしていると、カムパネルラは何の気もないように、小さな鼠色の切符を出しました。ジョバンニはすっかりあわててしまい、上着のポケットにでも入っていたのかと思いながら手を入れてみると、何か大きなたたんだ紙きれに触れました。こんなものが入っていたのだろうかと思い、急いで取り出してみると、それは四つに折ったはがきぐらいの大きさの緑色の紙でした。車掌が手を出しているので、何でもかまわないと思い渡すと、車掌はまっすぐに立ち直り、丁寧にそれを開いて見ました。そして読みながら上着のボタンをしきりに直したりしていましたし、燈台看守も下からそれを熱心に覗いていました。ジョバンニは、あれは証明書か何かだったのだと考え、少し胸が熱くなるような気がしました。

「これは三次元の方からお持ちになったのですか?」と車掌が尋ねました。

「なんだかわかりません」と、もう大丈夫だと安心しながらジョバンニはそちらを見上げてくすくす笑いました。

「よろしゅうございます。南十字に着きますのは、次の第三時ころになります。」車掌は紙をジョバンニに渡して向こうへ行きました。

カムパネルラは、その紙切れが何だったのか待ちきれない様子で急いで覗き込みました。ジョバンニも全く早く見たかったのです。しかし、それは一面黒い唐草模様の中に、おかしな十ばかりの字が印刷されていて、じっと見ているとなんだかその中に吸い込まれてしまいそうな気がしました。すると鳥捕りが横からちらっとそれを見て、あわてたように言いました。

「おや、これはたいしたもんですぜ。これはもう、本当の天上へさえ行ける切符だ。天上どころか、どこでも勝手に行ける通行券です。これをお持ちになれば、こんな不完全な幻想の第四次の銀河鉄道なんか、どこまででも行けるはずですよ、あなた方は本当にすごいですね。」

「なんだかわかりません」とジョバンニは赤くなって答えながら、それをまたたたんで隠しに入れました。そして気まずくなり、カムパネルラと二人、また窓の外を眺めていましたが、その鳥捕りが時々「たいしたもんだ」と言うようにちらちらこちらを見ているのがぼんやりとわかりました。

「もうじき鷲の停車場だよ」とカムパネルラが向こう岸の、三つ並んだ小さな青白い三角標と地図を見比べて言いました。

ジョバンニはなんだかわけもわからずに、隣の鳥捕りが気の毒でたまらなくなりました。鷺を捕まえて喜んだり、白い布でそれをくるくる包んだり、他の人の切符を驚いたように横目で見てあわてて褒めたり、そんなことを一つ一つ考えていると、もうその見知らぬ鳥捕りのために、ジョバンニの持っているものでも食べ物でも何でもやってしまいたい、そしてこの人の本当の幸せのためなら、自分があの光る天の川の河原に立って百年立ち続けて鳥を捕ってやってもいいという気がして、どうしても黙っていられなくなりました。本当にあなたのほしいものはいったい何ですかと訊こうとして、それではあまりにも出し抜けだから、どうしようかと考えて振り返ってみると、そこにはもうあの鳥捕りがいませんでした。網棚の上には白い荷物も見えませんでした。また窓の外で足を踏ん張って空を見上げて鷺を捕る準備をしているのかと思って急いでそちらを見ましたが、外は一面の美しい砂子と白いすすきの波ばかりで、あの鳥捕りの広い背中もとがった帽子も見えませんでした。

「あの人はどこへ行ったのだろう」とカムパネルラもぼんやりそう言いました。

「どこへ行ったのだろう。いったいどこでまた会うのだろう。僕はどうしても少しあの人に物を言わなかったのが悔しい。」

「ああ、僕もそう思っているよ。」

「僕はあの人が邪魔なような気がしたんだ。だから僕はとても辛い。」ジョバンニはこんな変な気持ちは本当に初めてで、こんなことを今まで言ったこともないと思いました。

「なんだか苹果の匂いがする。僕、今苹果のことを考えたからだろうか。」カムパネルラが不思議そうにあたりを見回しました。

「本当に苹果の匂いだよ。それから野茨の匂いもする。」

ジョバンニも周りを見ましたが、やっぱりそれは窓から入ってくるようでした。今は秋だから野茨の花の匂いがするはずはないとジョバンニは思いました。

その時、突然、つやつやした黒い髪の六歳くらいの男の子が、赤いジャケットのボタンもかけずに、驚いたような顔をして、震えながら裸足で立っていました。隣には、黒い洋服をきちんと着た背の高い青年が、風に吹かれているけやきの木のように堂々とした姿勢で、男の子の手をしっかりと引いて立っていました。

「ここはどこだろう。なんてきれいな場所なんだろう」と青年が言うと、その後ろには、黒い外套を着た可愛らしい茶色の目を持つ十二歳くらいの女の子が、青年の腕にすがりついて不思議そうに窓の外を見ていました。

「ここはランカシャイヤだ。いや、コンネクティカット州だ。そうだ、僕たちは空に来たんだ。私たちは天に行くのです。ほら、あのしるしは天上のしるしだよ。もう何も怖いことはない。私たちは神様に召されているんだ」と、黒服の青年は嬉しそうに女の子に言いました。しかし、なぜか彼の額には深い皺が刻まれ、疲れている様子でした。無理に笑顔を作りながら、男の子をジョバンニの隣に座らせました。そして、女の子に優しくカムパネルラの隣の席を指さしました。女の子は素直にそこに座り、両手をきちんと組みました。

「僕、お姉さんのところへ行くんだよ」と、座ったばかりの男の子が、灯台守の向こうの席に座った青年に言いました。青年はなんとも言えない悲しそうな顔をして、その子のちぢれた濡れた髪をじっと見つめました。女の子は突然、両手を顔にあててしくしく泣き始めました。

「お父さんや姉さんはまだいろいろな仕事があるのです。でも、すぐに後からいらっしゃいます。それよりも、お母さんはどんなに長く待っていることでしょう。私の大事なタダシは今、どんな歌を歌っているのかな、雪の降る朝にみんなと手をつないで、ぐるぐるにわとこの藪を回って遊んでいるのかなと考えたり、本当に心配して待っているんです。だから、早く行ってお母さんに会いましょうね」

「うん、でも僕、船に乗らなければよかったなあ」と男の子が言いました。

「ええ、でも見てごらん、あの立派な川、ほら、あそこは夏中『ツィンクル、ツィンクル、リトル・スター』を歌って休むとき、いつも窓からぼんやり白く見えていたでしょう。あそこだよ。ね、きれいでしょう、あんなに光っている」と青年が言いました。

泣いていた姉もハンカチで目を拭いて外を見ました。青年は教えるように、再び姉弟に言いました。「私たちはもう、何も悲しいことはないのです。こんな素晴らしい場所を旅して、もうすぐ神様のところへ行きます。そこは本当に明るくて、いい香りがして、立派な人たちでいっぱいです。そして、私たちの代わりにボートに乗れた人たちは、きっとみんな助けられて、心配して待っているお父さんやお母さん、そして自分の家へ帰るのです。さあ、もうすぐですから、元気を出して楽しく歌って行きましょう」と、青年は男の子の濡れたような黒い髪をなで、みんなを慰めながら、自分も次第に顔色が明るくなっていきました。

「あなたたちはどちらからいらっしゃったのですか。どうなったのですか?」と、さっきの灯台守がやっと少し理解したように青年に尋ねました。青年はかすかに微笑みました。

「いえ、氷山にぶつかって船が沈んでしまったのです。私たちはこちらのお父さんが急な用事で二か月前に一足先に本国へ帰ったので、後から出発したのです。私は大学に通っていて、家庭教師として雇われていました。しかし、ちょうど十二日目、今日か昨日のあたりに、船が氷山にぶつかって一気に傾き、もう沈みかけました。月の光はどこかぼんやりとありましたが、霧が非常に深かったのです。ところが、ボートは左舷の方半分がもうダメになっていたので、みんなは乗り切れませんでした。船は沈みかけていましたし、私は必死になって、小さな子どもたちを乗せてくださいと叫びました。近くの人たちはすぐに道を開けて、子どもたちのために祈ってくれました。しかし、ボートまでの道にはまだまだ小さな子どもたちや親たちがいて、押しのける勇気がありませんでした。それでも、私はどうしてもこの方たちを助けるのが私の義務だと思い、前にいる子どもたちを押しのけようとしました。しかし、そんなことよりも、みんなで神の前に行く方が、実際にはこの方たちの幸福だとも思いました。それからまた、その神に背く罪は私一人で背負って、ぜひとも助けてあげようと思いました。しかし、どうしても見ているとそれができませんでした。子どもたちだけのボートの中へ放してやって、お母さんが狂ったようにキスを送り、お父さんが悲しみをこらえてまっすぐに立っている姿は、もう腸がちぎれるようでした。そのうちに船はどんどん沈んでいきましたから、私たちは固まって、すっかり覚悟を決めて、この二人を抱いて、浮かぶだけは浮かぼうと船の沈むのを待っていました。誰が投げたのかライフブイが一つ飛んできましたが、すべってずっと向こうへ行ってしまいました。私は一生懸命に甲板の格子になったところを離れ、三人でそれにしっかりとつかまりました。どこからともなく「三〇六番」の声が上がりました。たちまちみんなはいろいろな国の言葉で一斉にそれを歌いました。その時、突然大きな音がして、私たちは水に落ち、もう渦に入ったと思いながら、しっかりこの人たちを抱いて、ぼんやりしているうちに、気がつくともうここに来ていました。この方たちのお母さんは一昨年亡くなられました。ええ、ボートはきっと助かったに違いありません。何せ、熟練した水夫たちが漕いで、素早く船から離れていましたから。」

小さな嘆息や祈りの声が周囲から聞こえてきて、ジョバンニもカムパネルラも、今まで忘れていたさまざまなことをぼんやりと思い出し、目が熱くなりました。

「ああ、その大きな海はパシフィックという名ではなかったのだろうか。氷山が流れる北の果ての海で、小さな船に乗って、風や凍りつく潮水、そして厳しい寒さと戦っている誰かがいる。僕はその人に本当に申し訳なく、そしてすまないような気がする。僕はその人の幸せのために一体どうしたらいいのだろう。」

ジョバンニは首を垂れ、すっかりふさぎ込んでしまいました。

「何が幸せかわからないですね。本当にどんな辛いことでも、それが正しい道を進む中での出来事なら、峠の上りも下りも、すべてが本当の幸福に近づく一歩一歩ですから。」

燈台守が慰めました。

「そうです。最も大きな幸せに至るために、さまざまな悲しみもすべておぼしめしです。」

青年が祈るように答えました。

その時、あの姉弟はすっかり疲れて、互いに寄りかかって眠っていました。さっきまで裸足だった足には、いつの間にか白く柔らかな靴が履かれていました。

汽車はごとごとと、きらびやかな燐光の川の岸を進んでいきました。向こうの窓を見ると、野原はまるで幻燈のようでした。大小さまざまな三角標が百も千も立ち並び、その大きなものの上には赤い点々を打った測量旗も見えました。野原の果てには、それらが一面に集まってぼんやりと青白い霧のようになり、そこから、あるいはもっと向こうから、時折さまざまな形のぼんやりした狼煙のようなものが、きれいな桔梗色の空に打ち上げられていました。本当にその透き通った美しい風は、バラの香りでいっぱいでした。

「いかがですか。こういう苹果はお初めてでしょう。」向こうの席の燈台看守が、黄金と紅で美しく彩られた大きな苹果を両手で膝の上に抱えていました。

「おや、どこから来たのですか。立派ですね。ここではこんな苹果ができるのですか?」青年は本当に驚いた様子で、燈台看守の両手に抱えられた一盛りの苹果を、目を細めたり首を傾けたりしながら、我を忘れて眺めていました。

「いや、まあお取りください。どうか、まあお取りください。」

青年は一つ取って、ジョバンニたちの方をちらっと見ました。

「さあ、向こうの坊ちゃんたち。いかがですか。お取りください。」

ジョバンニは「坊ちゃん」と呼ばれたので少し気に障りましたが、カムパネルラは「ありがとう」と言いました。

すると青年は自分で一つずつ二人に送ってくれましたので、ジョバンニも立ち上がり、「ありがとう」と言いました。

燈台看守はやっと両腕が空いたので、今度は自分で一つずつ眠っている姉弟の膝にそっと置きました。

「どうもありがとう。こんな立派な苹果はどこでできるのですか?」青年はじっくり見ながら尋ねました。

「この辺ではもちろん農業をしていますが、大抵は自然に良いものができるような約束になっています。農業だってそんなに骨は折れません。大抵は自分の望む種子さえ播けば、自然にどんどん育ちます。米だってパシフィック辺のように殻もなく、十倍も大きくて香りも良いのです。しかし、あなた方のいらっしゃる方では農業はもうありません。苹果だってお菓子だって、かすが少しもありませんから、みんなその人その人によって違った、わずかの良い香りになって、毛穴からちらけてしまうのです。」

その時、男の子がぱっちり目を開けて言いました。

「ああ、僕今お母さんの夢を見ていたよ。お母さんがね、立派な戸棚や本のあるところにいて、僕の方を見て手を出してにこにこ笑っていたよ。僕、お母さん。リンゴを拾ってきてあげましょうかと言ったら、目が覚めちゃった。ああ、ここはさっきの汽車の中だね。」

「その苹果がそこにあります。このおじさんにいただいたのですよ。」青年が言いました。

「ありがとうおじさん。おや、香る姉さんまだ寝てるね。僕、起こしてあげよう。姉さん、ごらん、リンゴをもらったよ。起きてごらん。」

姉は笑って目を覚まし、まぶしそうに両手を目に当ててから、苹果を見ました。

男の子はまるでパイを食べるように、もうそれを食べ始めていました。せっかく剥いたそのきれいな皮も、くるくるとコルク抜きのような形になって床に落ちるまでの間に、すうっと灰色に光って蒸発してしまいました。

二人はリンゴを大切にポケットにしまいました。

川下の向こう岸には青く茂った大きな林が見え、その枝には熟して真っ赤に光る丸い実がたくさんなっていました。その林の真ん中には高い高い三角標が立ち、森の中からはオーケストラのような、なんとも言えず美しい音色が、溶けるように、浸みるように風に乗って流れてきました。

青年はぞくっとして体を震わせました。

黙ってその音楽を聞いていると、周囲に一面に黄色や薄い緑の明るい野原が広がり、また真っ白な蝋のような露が太陽の面をかすめて行くように思われました。

「まあ、あの烏!」カムパネルラの隣の、香ると呼ばれた女の子が叫びました。

「からすではない。みんなかささぎだ。」カムパネルラが何気なく叱るように叫んだので、ジョバンニは思わず笑い、女の子は気まずそうにしました。まったく河原の青白い光の上に、黒い鳥がたくさん列になってとまって、じっと川の微光を受けているのでした。

「かささぎですね。頭の後ろのところに毛がぴんと伸びていますから。」青年は取りなすように言いました。

青い森の中に立つ三角標が、汽車の正面に近づいてきた。すると、汽車の後方から、あの懐かしい306番の讃美歌のメロディが聞こえてきた。どうやら大勢の人たちが合唱しているようだった。青年の顔色が急に青ざめ、思わずその方向へ行こうとしたが、すぐに思い直して座り直した。かおる子はハンカチを顔に当ててしまった。

ジョバンニも、なんだか鼻がむずむずしてきた。しかし、いつの間にか誰ともなくその歌が始まり、次第にはっきりと、強くなっていった。思わずジョバンニもカムパネルラも一緒に歌い始めた。

青い橄欖の森が、見えない天の川の向こうで静かに光りながら、次第に後方へと移っていく。そこから流れてくる不思議な楽器の音も、汽車の音や風の音にかき消されて、次第にかすかになっていった。

「見て、孔雀がいるよ。あ、孔雀がいるよ」と誰かが叫んだ。

「きっとあの森琴の宿だわ。昔の大きなオーケストラの人たちが集まっていると思うわ。その周りには青い孔雀がたくさんいるに違いないわ」と女の子が言った。

「ええ、たくさんいたわ」と別の女の子が答えた。

ジョバンニは、その小さくなっていく森の上に、青白く光る孔雀が羽を広げたり閉じたりする様子を見た。

「そうだ、孔雀の声もさっき聞こえたよ」とカムパネルラが女の子に言った。

「ええ、三十匹ぐらいは確かにいたわ」と女の子が答えた。

ジョバンニは、急に何とも言えない悲しさがこみ上げてきて、思わず「カムパネルラ、ここから降りて遊びに行こうよ」と言おうとしたが、顔がこわばってしまった。

その時、ジョバンニは川下の遠くに不思議なものを見つけた。それは黒くて滑らかな細長い物体で、見えない天の川の水の上に飛び出し、弓のような形を描いて水の中に消えていった。おかしいと思い、注意深く見ていると、今度は近くでも同じような現象が起きているのが見えた。そのうち、あちらこちらでその黒い滑らかな物体が水から飛び出し、丸く飛んでまた水中に潜る様子がたくさん見えてきた。どうやらみんな魚のように川上へと向かっているようだった。

「まあ、なんでしょう。たあちゃん、見て。たくさんいるわね。あれは何だろう」と、眠そうに目をこすっていた男の子が驚いたように立ち上がった。

「なんだろう」と青年も立ち上がった。

「おかしな魚だわ、あれは何だろう」と女の子が言った。

「海豚だよ」とカムパネルラがそちらを見ながら答えた。

「海豚なんて、私は初めて見たわ。でもここは海じゃないのに」と女の子が言った。

「イルカは海にいるとは限らないよ」と、あの不思議な低い声がどこからか聞こえてきた。

本当にそのイルカの形はおかしく、両手を下げたような姿勢で水中から飛び出し、頭を下にしてまた水の中へと戻っていった。見えない天の川の水も、その時は青い炎のように揺らめいていた。

「イルカは魚でしょうか?」女の子がカムパネルラに尋ねた。男の子は疲れたように席にもたれて眠っていた。

「イルカは魚じゃないよ。クジラと同じような生き物なんだ」とカムパネルラが答えた。

「あなたはクジラを見たことがあるの?」

「うん、あるよ。クジラは頭と黒いしっぽだけ見えるんだ。潮を吹くと、本に書いてあるように見えるよ。」

「クジラなら大きいわね。」

「クジラは大きいよ。子供だってイルカくらいの大きさがあるんだ。」

「そうよ、私『アラビアンナイト』で見たわ」と姉は細い銀色の指輪をいじりながら楽しそうに話していた。

(カムパネルラ、僕もう行っちゃうよ。僕なんかクジラだって見たことないや。)

ジョバンニは、たまらないほどいらいらしながらも、唇を噛んでこらえて窓の外を見ていた。その窓の外にはイルカの姿も見えなくなり、川は二つに分かれていた。暗い島の真ん中には高い高い櫓が一つ組まれ、その上に一人のゆったりとした服を着て赤い帽子をかぶった男が立っていた。彼は両手に赤と青の旗を持ち、空を見上げて信号を送っていた。