上
von 泉鏡花 · 2026-03-31
実は、私は好奇心から、画家である自分を利用して、ある口実を設けて、兄弟と共に名医である高峰に依頼し、ある日、東京の病院で貴船伯爵夫人の手術を見せてもらうことになった。
その日、午前九時を過ぎた頃、私は家を出て病院へと向かった。外科室に着くと、廊下の途中で、華族の小間使いのような美しい女性たちとすれ違った。彼女たちの間には、被布を着た七、八歳の娘がいて、見送る様子が見えた。
さらに、玄関から外科室、外科室から二階の病室へと続く長い廊下には、フロックコートを着た紳士や制服を着た武官、羽織袴の人々、そして貴婦人や令嬢たちが行き交っていた。彼らは皆、ただならぬ気品を漂わせ、互いにすれ違ったり、立ち止まったりしながら、まるで織りなすように動いていた。私は門前に停まっていた馬車を思い出し、心の中で頷いた。彼らの中には、沈痛な表情の人もいれば、憂慮の色を浮かべる人も、また慌ただしそうにしている人もいたが、いずれも穏やかな顔色ではなく、忙しげに小刻みに響く靴音や草履の音が、病院の高い天井や広い建具、長い廊下の中で異様な響きを生み出し、陰惨な雰囲気を醸し出していた。
私はしばらくして外科室に入った。
その時、私と目が合った医学士は、微笑を浮かべながら両手を組み、椅子に寄りかかっていた。今まさに始まろうとしている手術に、ほとんど日本の上流社会全体の喜びと悲しみがかかっているという大きな責任を背負いながら、彼はまるで晩餐の席に臨むかのように冷静であった。おそらく、彼のような人は稀であろう。助手が三人、立ち会いの医師が一人、さらに赤十字の看護婦が五名いた。看護婦の中には、胸に勲章を帯びた者もいて、特に高貴な出自の者がいるのだろうと思われた。その他に女性はおらず、伯爵や侯爵、伯などが立ち会う親族であった。そして、病者の夫である伯爵は、形容しがたい面持ちで愁然と立っていた。
室内の人々に見守られ、外の人々に憂慮されながら、手術台に横たわる伯爵夫人は、純白の白衣に包まれ、まるで死体のように静かに横たわっていた。彼女の顔色は青白く、鼻は高く、顎は細く、手足はまるで絹のように柔らかそうだった。唇の色は少し褪せており、玉のような前歯がかすかに見え、目は固く閉じられ、眉はわずかに顰められていた。束ねられた髪は、枕に乱れて台の上にこぼれていた。
そのか弱くも気高く、清らかで貴い病者の姿を一目見ると、私は寒気を感じた。
医学士は、まるで何の感情も動かさないかのように、平然とした表情で椅子に座っていた。彼の落ち着きは頼もしいものであったが、伯爵夫人の容体を見た私の目には、むしろ心苦しさが募った。
その時、静かに戸が開き、先ほど廊下ですれ違った三人の腰元の中で、ひときわ目立つ婦人が入ってきた。
彼女は貴船伯に向かって、沈んだ声で言った。
「御前、姫様はようやくお泣き止みになり、別室でお静かにいらっしゃいます。」
伯爵は何も言わずに頷いた。
看護婦は医学士の前に進み出て、
「それでは、あなた。」
「よろしい。」
と一言答えた医学士の声には、少し震えが混じっていた。その顔色も、急に少し変わったように見えた。
さて、どんな医学士も、手術の際には驚きや懸念を抱くもので、私は同情を表した。
看護婦は医学士の指示を受けてから、腰元に向かって言った。
「もう、なんですから、あのことを、ちょっと、あなたから。」
腰元はその意を理解し、手術台に近づき、優雅に膝のあたりまで両手を下げて、しとやかに立礼した。
「夫人、ただいま、お薬を差し上げます。どうぞそれを、お聞きあそばして、いろはでも、数字でも、お算えあそばしますように。」
伯爵夫人は答えなかった。
腰元は恐る恐る繰り返した。
「お聞き済みでございましょうか。」
「ああ」とだけ答えた。
念を押して、
「それではよろしゅうございますね。」
「何かい、麻酔剤をかい?」
「はい、手術が済むまで、ちょっとの間ですが、御寝なりませんと、いけませんそうです。」
夫人は黙って考え込んでいたが、
「いや、よそうよ」とはっきり聞こえる声で言った。一同は顔を見合わせた。
腰元は、諭すように言った。
「それでは夫人、御療治ができません。」
「はあ、できなくてもいいよ。」
腰元は言葉を失い、伯爵の様子を伺った。伯爵は前に進み出て、
「奥、そんな無理を言ってはいけません。できなくてもいいということがあるものか。わがままを言ってはなりません。」
侯爵もまた、傍から口を挟んだ。
「あまり無理をおっしゃったら、姫を連れて来て見せるがいい。早く良くならなければどうするものか。」
「はい。」
「それでは御得心でございますか。」
腰元はその間に周旋していた。夫人は重そうな頭を振った。看護婦の一人は優しい声で言った。
「なぜ、そんなにおきらいあそばすの、ちっともいやなもんじゃございませんよ。うとうとあそばすと、すぐ済んでしまいます。」
この時、夫人の眉は動き、口は曲がり、瞬間的に苦痛に耐えられない様子になった。半ば目を開けて、
「そんなに強いるなら仕方がない。私は心に一つ秘密がある。麻酔剤は夢を見させると言うから、それが怖くてたまらない。どうぞ、もう眠らずにお療治ができないようなら、快らんでもいい、よしてください。」
伯爵夫人は、自らの心の奥に秘めた秘密が夢の中で漏れ出すことを恐れ、死をもってその秘密を守ろうと決意していた。彼女の夫である伯爵がそのことを知ったら、どんな気持ちになるのだろうか。もしこの話が平常時に語られれば、必ずや一波乱を引き起こすことは間違いない。しかし、病に臥せる者に対して、看護する立場の者は何事も無視するわけにはいかない。にもかかわらず、夫人は自らの口から秘密を他人に知られることはないと、毅然として言い放った。
伯爵は穏やかに言った。「私にも、聞かされないことがあるのか?」
「はい。誰にも話すことはできません」と夫人は強い意志を持って答えた。
「麻酔薬を嗅いだからといって、夢中で何かを言うことはないだろう」と伯爵は言った。
「いいえ、これくらいのことを考えていれば、きっと言ってしまいます」と夫人は反論した。
「そんなことはない、無理を言うな」と伯爵は言った。
「もう、やめてください」と夫人は言い、寝返りを打とうとしたが、病気の身ではうまくいかず、歯を鳴らす音が聞こえた。
その中で、ただ一人、医者だけが冷静な表情を保っていた。彼は先ほどの混乱を経て、今や落ち着きを取り戻していた。
侯爵は渋い顔をして言った。「貴船、姫を連れて来て見せるのがいい。子供の可愛さには、私も折れよう。」
伯爵は頷き、「これ、綾」と呼びかけた。
「はい」と腰元は振り返った。
「姫を連れて来い」と伯爵は命じた。
夫人は耐えきれず遮り、「綾、連れて来なくてもいい。なぜなら、眠らなければ治療はできないから」と言った。
看護婦は困ったように微笑み、「お胸を少し切りますので、動かれると危険です」と言った。
「私はじっとしているから、動かないから、切ってください」と夫人は言った。
その無邪気さに、私は思わず寒気を覚えた。おそらく今日の手術は、目を開けて見るものではないだろう。
看護婦は再び言った。「夫人、いくらなんでも少しは痛みを感じるでしょうから、爪を取るのとは違いますよ。」
夫人はここでぱっちりと目を開け、気を引き締めて声を凛とさせた。「刀を取る先生は、高峰様だろうね!」
「はい、外科科長です。いくら高峰様でも、痛くなく切ることはできません」と看護婦は答えた。
「大丈夫、痛くないよ」と夫人は言った。
「夫人、あなたの病気はそんなに軽いものではありません。肉を切り、骨を削るのです。少しの間、辛抱してください」と医者は言った。
医者は初めてこう言った。これが耐えられないことであるならば、夫人は驚く様子も見せなかった。
「そのことは知っています。でも、全然気にしません」と夫人は言った。
「大病だと思われるので、どうかしおったと思います」と伯爵は憂いを帯びて言った。侯爵は横から、「ともかく、今日は見合わせるというのはどうだろう。後でゆっくりと話を聞かせればいい」と提案した。
伯爵は一言もなく、周囲の者たちが皆賛同するのを見て、医者は遮った。「一時でも遅れると、取り返しがつきません。あなた方は病を軽んじているから、こうなってしまうのです。感情を語るのは姑息です。看護婦、少し押さえてください。」
厳粛な命令のもと、五人の看護婦はバラバラと夫人を囲み、その手と足を押さえようとした。彼女たちは責任を持って命令に従う。医師の命令に従うだけで、他の感情を顧みる必要はないのだ。
「綾! 来ておくれ。あれ!」と夫人は息も絶え絶えに腰元を呼んだ。
看護婦たちは慌てて遮り、「ちょっと待ってください。夫人、どうかご辛抱を」と優しい腰元はおろおろしながら言った。
夫人の顔は青ざめて、「どうしても承知しませんか。それでは全快しても死んでしまいます。いいからこのままで手術をなさいと申し上げているのに」と言い、真っ白な細い手を動かし、衣服を少し緩めて胸を見せた。
「さ、殺されても痛くない。全然動かないから、大丈夫だよ。切ってもいい」と決然と言い放った。彼女の表情は揺るがず、さすが高貴な身分の者で、威厳を保っていた。その瞬間、周囲は息を呑み、高い咳さえも漏らさず静まり返った。伯爵夫人はまるで死んだように見えたが、高峰は軽く身を起こし、椅子を離れた。
「看護婦、メスを」と高峰が命じた。
「はい」と一人の看護婦は目を見開いて応じた。一同は愕然とし、医者の顔を見つめた。もう一人の看護婦は少し震えながら消毒したメスを高峰に渡した。
医者はそれを受け取り、そのまま靴音軽く手術台に近づいた。看護婦はおどおどしながら、「先生、このままでいいんですか?」と尋ねた。
「ああ、いいだろう」と高峰は答えた。
「じゃあ、お押さえします」と看護婦は言った。
医者は手を挙げて軽く止め、「それには及ばない」と言った。その瞬間、彼の手はすでに病者の胸を掻き開けていた。夫人は両手を肩に組み、身動き一つせずにいた。
その時、高峰は、誓うように深く厳粛な声で言った。「夫人、責任を持って手術を行います。」
高峰の風貌は神聖で、犯すべからざる異様なものに見えた。
「どうぞ」と一言答えた夫人の蒼白な頬には、ほんのりと紅が差し込んだ。彼女はじっと高峰を見つめ、胸に迫るナイフにも目を背けることはなかった。
その瞬間、雪のように白い寒紅梅が咲くように、血が胸から流れ出し、白衣を染めていった。夫人の顔は再び蒼白になったが、驚く様子も見せず、足の指さえも動かさなかった。
事がここに至るまで、高峰の動きはまるで脱兎のごとく神速で、ほんの一瞬の隙もなかった。伯爵夫人の胸を割くや、一同はもちろん、医者に至るまで言葉を挟む隙もなかった。しかしここに至り、皆は震え、顔を覆い、背を向け、ある者は首を低くし、私のように我を忘れて、心臓まで寒くなってしまった。
三秒後、彼の手術は佳境に進み、メスが骨に達したと感じた時、夫人は深刻な声を絞り出し、「あ」と叫んだ。二十日間寝返りさえもできなかった彼女は、突然器械のように半身を跳ね起こし、高峰の右腕に両手をしっかりと掴んだ。
「痛みますか?」
「いいえ、あなただから、あなただから。」
伯爵夫人はそう言いながら、力なく仰向けになり、冷たく鋭い眼差しで国手を見つめた。
「でも、あなたは、私を知りませんよね!」
彼女がそう言ったのは、もう遅い時間だった。高峰は手に持ったメスに片手を添え、乳の下深くを切り裂いた。医学士は青ざめ、震えながらもその光景を見守った。
「忘れません。」
その声、その呼吸、その姿。伯爵夫人は嬉しそうに、無邪気な微笑みを浮かべて高峰の手から自分の手を離した。すると、彼女はばったりと枕に伏せ、唇の色が変わっていくのが見えた。
その瞬間、二人の周りには、まるで天も地も社会も存在しないかのような静寂が広がっていた。全てが消え去り、ただ二人だけの世界がそこにあった。