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一〜三 (2)

von 泉鏡花 · 2026-03-31

「もう一人、ここに来て寝るそうだ。お前と同じ国、若狭の者で、塗物の旅商人だという。いや、この男は若いが、実にしっかりした良い男だ。

私が話の始まりをしたのは、飛騨の山を越えた時のことだ。麓の茶屋で一緒になった富山の売薬という男がいて、彼はどうにも気に障る、ねじれたような嫌な壮年だった。

その日、峠を越えようとする朝早く、最初の宿を出たのは三時ごろだった。涼しいうちに六里ほど歩いて、その茶屋に着いたのだが、朝から晴れてじりじりと暑かった。

急いで歩いたせいで喉が渇いて仕方がなかった。すぐにお茶を飲もうと思ったが、まだ湯が沸いていないと言われた。

この時期、めったに人が通らない山道で、朝顔が咲いているのに煙が立つわけもない。床几の前には冷たそうな小流れがあったので、手桶の水を汲もうとした時、ふと気がついた。

実は、暑さのせいで恐ろしい病が流行っていて、先に通った村などは一面に石灰だらけだったのだ。

「すみません、この水は井戸の水ですか?」と茶店の女に聞いたが、なんだか気まずくてもじもじしてしまった。

「いえ、川の水です。」と彼女が答えたのを聞いて、妙だと思った。

「山の方では大分流行病があるようですが、この水は辻の方から流れてきているのではありませんか?」と尋ねると、女は何気なく「そうではありません。」と答えた。

ほっとした私は、彼女に話しかけた。「ここにいて、さっきから休んでいたのが、右の売薬です。この男は万金丹の下廻りで、千筋の単衣に小倉の帯、最近は時計を挟んで、脚絆や股引をつけている。もちろん、草鞋を履いて、千草木綿の風呂敷包を首に結び、桐油合羽を小さく畳んで真田紐で包に付けている。小弁慶の木綿の蝙蝠傘を一本持っているのもお決まりだ。ちょっと見ただけでも、どれもこれも分別のありそうな顔をしている。

泊まると、大きな浴衣に着替えて、帯を緩めて焼酎をちびりちびりと飲みながら、旅籠屋の女の太った膝に足を上げようとする男だ。

「これや、法界坊。」と、天窓から見下ろしている。

「変なことを言うようだが、世の中の女ができないと相場が決まって、すっぺら坊主になってもやっぱり命は欲しいのかね。不思議だね、争われないものだ。姉さん、見てごらん、あれでまだ未練があるうちがいいじゃないか。」と、顔を見合わせて二人で笑った。

私は恥ずかしくなり、手に汲んだ川の水を飲むのをためらっていた。

ポンと煙管を叩いて、「何、遠慮しないで浴びるほど飲みなさい。命が危なくなれば、薬を使うから、そのために私がついているんだよ、なあ姉さん。おい、それでも無銭ではいけないよ。神方万金丹、一貼三百だ。欲しければ買いな。まだ坊主に報酬を払うような罪は作らないから、どうだ、お前はどう思う?」と茶店の女の背中を叩いた。

私はすぐにその場を離れた。

いや、膝だの女の背中だのと、年を重ねた和尚が業体で恐れ入るが、話が話だから、そこはよろしく。」