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ドグラ・マグラ (38/47)

von 夢野久作

「この絵巻物の存在意義について考えてみると……」

「そうなんだ。その絵巻物の絵と、由来記に記されている事実をじっくり比較してみると、この絵巻物の本質的な意義が怪しくなってくる。つまり、この絵巻物は六体の画像を描き並べるだけで、天子を諫める目的は十分に達成できるということだ。女性の肉体美がいかに儚いもので、無常であるかを悟らせるには、この六つの腐敗した美人像だけで十分なのだ。証拠は目の前にある。君が今、少し目を通しただけでもゾッとしただろう?」

「……それは……そうですね……」

「そうだろう?第六番目の、まるで乾物のような姿の後に、もう一つ白骨の絵でも描き添えれば、それでこの絵巻物は完成したと言ってもいい。残った白い部分に諫言の文や苦心談を書いて献上し、自分は後で自殺でもすれば、気の弱い文化天子の心を揺さぶる効果は十分、いや、十二分だったはずだ。それなのに、彼女の遺骸が白骨になるのを静かに待つこともせず、必要のない新たな犠牲を求めて歩き続けたのはなぜだろうか……未完成のまま後代に伝え、呉家を呪うための恐ろしい心理遺伝の暗示材料としたのはなぜか……一千百年後の今日、私たちの学術研究の材料として珍重される因果因縁を作ったのはなぜか……」

私は思わず溜息をついた。正木博士の話から漂ってくる異様な気分に魅せられ、何となく狂気じみた不思議な疑念が心の中で膨らんでいくのを感じながら……。

「どうだ、不思議だろう?小さな問題のようで、実はかなり重大な問題だ。この問題は考えれば考えるほど、わからなくなってくるはずだからね。ハハハハハ。だから私は言うのだ。この問題を解くには、呉青秀がこの絵巻物を作ろうとした最初の心理的要素にまで遡って観察しなければならない。その時の呉青秀の心理状態を解剖し、この矛盾が生じた根本を探らなければならない……しかも、それは決して難しい問題ではないのだ。」

「……………」

「つまり、まずその時の呉青秀の心理的要素を包んでいる『忠君愛国の観念』という表面的な意識を一枚剥がしてみると、その下から最初に現れるのは燃え立つような名誉欲だ。その次には焦げ付くような芸術欲……そのまた底には沸騰点を突破した愛欲、兼、性欲があり、この四つの欲望が徹底的に一つに固まり合って、超人間的な高熱を発していた。結局、呉青秀の素晴らしい忠君愛国精神の正体は、実は非常に下等で深刻な、変態的な性欲の塊に過ぎなかったことが明らかになってくるのだ。」

私は思わずハンカチで鼻を撫でた。自分の心理を解剖されているような気がしたからだ……。

「これを具体的に説明すると、こうだったのだろう。李太白が玄宗皇帝の淫蕩と栄耀栄華に媚びて詩を作り、御寵愛を受けたことで天下の大詩人となったのを見た呉青秀は、よし、それなら俺はその正反対の道を行って名を残してやろうと思った。自分の筆力で前代未聞の怪画を描き、天下後世を驚かせようとした……これが若い天才肌の芸術家にありがちな、最も高まった名誉欲だ。また、呉青秀自身の男らしさと、天才に相応しい名声に惚れ込んで、心から愛されている新妻から身も心も捧げられた新婚早々の幸福に有頂天になった呉青秀は、わずか数ヶ月の間にあらゆる愛し方と愛され方を味わい尽くしてしまった。この上はその美しい愛人を、極度に残忍な方法で虐待しなければ、この上の感激は求められないといった程度にまで欲求が高まっていた。これがやはり天才肌の青年、特に頭の優れた芸術家にありがちな超自然的な愛欲、兼、性欲だ……そしてもう一つ、嘆美の極はこれを破壊することにある。醜怪な内容を底まで曝露し、冷やかに観察することにある……という芸術欲の行き詰まりと、この四つの欲望が白熱的な焦点を作り、この計画の中に集中していた。しかも、その強烈な欲求を呉青秀は純忠純誠の欲求として錯覚していたのだが、そうした呉青秀の心理状態の裏面を端的に説明しているのは、やはりこの絵巻物の絵、腐敗していく美人の姿なのだ。」

私の目の前に再び、最初の死美人の幻影が現れそうになった。思わず両手で目をこすり、鼻先の絵巻物に視線を落とし、表装の中で光る黄金色の唐獅子の一匹をじっと見つめた。出てくることはない……そう思いながら……。

呉青秀は、死んでいく美人の姿を丹念に描写し続けるうちに、何とも言えない快感を覚え始めた。彼の筆は、最初から最後まで、細かく冴え渡っていた。人体という最高の自然美、色と形の透き通るような調和を表現した美人の姿が、少しずつ明るさを失い、仄暗く、気味の悪い変化を遂げていく様子は、まるで恐ろしい運命を辿るかのようだった。彼はその変化の中に、無限の美の滅亡を感じ取りながら、静かに紙の上に写し取っていった。その心持ちは、一国の衰亡を記録する歴史家の感想とは比べ物にならないほど深いものだった。

呉青秀は、忠義も名誉も愛情も性欲も、すべてを打ち込んだ無我夢中の気持ちの中で、この快感と美感を筆に込めて、飽くことなく味わったに違いない。やがて、その残骸が白骨になるしかないほど腐り果ててしまったのを見た彼は、決然と筆を投げ捨てた。再びこの快感を味わいたいという熱い願望が、彼の全身を震わせていた。

しかし、呉青秀の心の奥には、長い禁欲生活によって鬱積された性欲が、痛みを伴うほどの強烈な刺激を与え続けていた。その刺激は、疲れ切った神経によって屈折し、変形し、呉青秀の全身に渦巻いていた。彼の細胞の一つ一つには、捩じれた性欲の変態的な習性と、痛烈な記憶が張り裂けるほどに刻まれていた。

正木博士の声は、ここで一瞬途切れた。

私は目の前にある獅子の刺繍を、視力の疲労のためにぼんやりと見つめていた。そのぼんやりとした色の中に、ただ一つ浮かび上がる草色に心を惹かれながら、耳を傾けていた。

「こうして、忠君も愛国も名誉も芸術も夫婦愛も、すべてを超越してしまった呉青秀は、帰ってきた我が家で、同じく変態性欲に囚われている義妹の芬氏に出会い、美しい背負い投げを受けた。すると、その強烈な刺激から一瞬にして解放され、彼の意識は消え去った。長い間習慣づけられてきた性欲と、それに絡みつく恐ろしい記憶を抱えたまま、彼は死んでいった。そして、その胤は生き代わり死に代わり、呉一郎に至って再び覚醒する機会を得た。呉一郎の全身の細胞に潜む心理遺伝は、先祖たちによって繰り返し味わわれてきた変態性欲と、それに関する記憶を、六つの死美人像によって鮮やかに呼び覚ました。すなわち、呉一郎は、呉青秀の姿を持っていたのだ。」

「……………」

「この深刻で痛烈な変態性欲の刺激の前では、呉一郎自身の記憶や意識は、影法師のように無価値なものになってしまった。今まで彼を支配していた現代的な理性や良心の代わりに、一千年前の天才青年の無軌道な欲求が入れ替わった。そして、その記憶の中にただ一つ、美しいモヨ子の姿が鮮明に浮かび上がった。」

「……………」

「一千年後に現れた呉青秀の変態性欲の幽霊は、現代の青年の判断力や記憶、習慣を使って無軌道に活躍し始めた。浜の石切場を出ると、急いで家に帰り、モヨ子と何かを打ち合わせたのだろう。おそらく、母屋の雨戸の掛金を内側から外しておくことや、土蔵の鍵や蝋燭を用意することだったに違いない。それから呉一郎は、家中が静まるのを待って母屋に忍び込み、そっとモヨ子を呼び起こした。無論、モヨ子はこの時まで、新郎の要求の真の意味を知らなかったようだ。呉一郎も、いざという時まで故意に真実を話さず、高圧的に迫ったのだろう。モヨ子はその恐ろしい計画を知らず、ただ当たり前の意味に解釈し、非常に恥ずかしい思いをしながら躊躇していたことが、戸倉仙五郎の話からも伺える。しかし、モヨ子は温和な性格のまま、結局新郎の命令に従うことになった。呉一郎は蝋燭の光を頼りに、土蔵の二階に誘い上げたのだ。これがその順序である。そこで、その現場に関する調査記録を開いてみてほしい。」

「……………」

「……そうだ。まさにその通りだ。階下から蝋燭の滴が落ちてくる様子が、記録に書かれているだろう。その百匁の蝋燭の光の前で、新郎と向かい合ったモヨ子は、初めてその絵巻物を突き付けられた。彼女は、その絵巻物を完成させるために死んでくれという、熱烈な要求を受けたに違いない。しかも、その絵を見たとき、彼女の目の前には、自分にそっくりな裸体の少女の腐敗した姿が描かれているのだから、たまらない。腸の底まで震え上がり、卒倒し、そのまま仮死状態に陥ってしまったのだろう……という事実が、その調査記録には『抵抗、苦悶の形跡なし』や『意識喪失後に於て絞首』といった文言で示されているではないか。」

「……さらに、モヨ子がその後、あまり深くはないものの、自分と同じ姓の祖先である花清宮裡の双姉妹の心理遺伝を、あの六号室で描き現わしている事実を考えると、彼女が仮死状態に陥った瞬間は、土蔵の二階で呉一郎が描いた一千年前の呉青秀の心理遺伝の身ぶりによって、モヨ子が先祖の黛や芬姉妹から受け継いだマゾヒスム的な変態心理の欲望と記憶が、まるでそのまま呼び起こされた瞬間だったのではないかと、想像されるのだ。」

「……………」

「……ただ、こう言うと不思議に思うかもしれないが、心理遺伝の発作と消滅の前後に、仮死状態や無意識、昏睡状態が伴う例は古来、多くの記録や伝説に残されている。この分野の専門的な研究から見ると、全く不思議なことではないのだ。昔はこれを『神憑り』や『神気』、『神上り』と呼んでいたもので、ひどい場合には、その期間が長すぎて、本当に死んだと思われて土葬された者が、墓の下で蘇ったという記録さえ珍しくない。能楽『歌占』の主人公になっている伊勢の神官、渡会の某は、三日も土の中で苦しんだために白髪になって這い出してきた……というのは、そんな伝説の中でも最も有名な一つで、これを精神科学的に説明すると、電気のスイッチを一方から一方へ切り替える瞬間に生じる暗黒状態のようなものだ。もちろん、その気持ちの変化の強弱や、その人間の体質、性格によって時間の長短は異なるが、普通の場合、突然の驚きに似た卒倒と、それに続く身体の全機能の停止があり、その後に息を吹き返すと、挙動が全く別人のようになる……つまり、心理遺伝の夢遊発作が始まるのだ。また、そうした発作を続けてきた人間が、同じ暗黒状態を経た後に正気に戻ることもある。前に述べた狐憑きのような場合は、夢中遊行発作の程度が比較的浅いため、無意識状態に陥る時間も短いのが通例だ。……なお、この仮死の間における栄養作用や新陳代謝の具合についての研究は、呉モヨ子のモデルに基づいて、若林が十分に行っていると思うし、私も他人の受け売りなら多少できるが、この話には直接の必要がないので省略する。いずれにしても、呉モヨ子が仮死状態に陥った直接の原因が、呉一郎の夢中遊行から来た暗示であっただろうということは、若林の調査書類の文言が、言わず語らずの中に示している推論であり、私も両手を挙げて賛成せざるを得ない。」

「……………」

「また、これは私個人の想像だが、従来の呉家にはモヨ子のように、女性としての祖先である黛や芬から来た心理遺伝を表した女性の話が一つも残っていないようだ。また、この絵巻物を警戒して、人に見せないようにした勝空という僧侶も、呉家の中興の祖である虹汀も、この点には全く注意を払っていないようだが、これはこの絵巻物が示す変態心理の暗示が、男性にだけ有効であることが明白であり、これに刺激された男性たちの心理遺伝の発作が、相手の女性の心理遺伝に影響を及ぼすような場合が全く想像できなかったからだ。……ところが今回は事情が全く違う。お互いに他人同士ではないのだから。千載一遇と言おうか、奇跡中の奇跡とでも考えられるだろうか、相手のモヨ子の姿が、その絵巻物の主人公と寸分違わなかったために、呉一郎の心理遺伝も、今までに類例のない、ほぼ完全に近い暗示に支配されることになった。したがって、その一言一句、一挙一動の極めて細かいところまで、当時の呉青秀の動作と寸分違わぬ感じを表し続けたために、思わずモヨ子の心理遺伝を誘発することになったのではないかと考えられる。これはあまりにも奇怪すぎる事実の一致を想像したものだが、しかし全くの想像ではない。相当の根拠を持って言えることなのだ。……というのは、調査書が証明している通り、呉一郎が死人同様に倒れているモヨ子の首を、わざわざ西洋手拭で絞め上げたとすると、この変態的な性欲は、単に女性を殺すことだけが目的ではなかったことがわかる。死んでいても構わないから、女性の首を絞めるという特異な快感を味わいたい……という願望のために、こんな余計なことをしたのだと考えることができる。……どうだろう。一千年前にいたある男の変態的な性欲が、こんなに細かいところまで正確に伝わっているとしたら、実に面白い研究材料ではないか。」

「……………」

「……さて、こうしてこの発作が終わると、呉一郎は、その屍体をモデルにするつもりで腐るのを待った。それを土蔵の窓から伯母の八代子が覗いたとき、呉一郎は平気で振り返り、『もうじき腐ります』と言った。この言葉には、私たちが聞くと実に一千年間……一千里にわたる時間と空間の矛盾が含まれているのだが、彼、呉一郎自身にとっては、どちらも現在の、目の前のことだった。彼がモヨ子を絞殺した目的が、そうした大昔の遠方の先祖である呉青秀の、超自然的な心理の満足以外になかったことは、モヨ子の屍体解剖の結果が、情交の形跡なしと示されているのを見てもわかる……。」

一気に続いた驚くべき説明がやっと終わり、私は長い深呼吸をして顔を上げた。正木博士はやはり偉大な精神科学者だった。最初に抱いていた尊敬の念を取り戻すと同時に、なんとなく安心した気持ちになった。しかし、全身がどこか冷え冷えとして汗をかいていることに気づいた。

私は再びホッとして尋ねた。「でも……あの呉一郎の頭は……治りますか?」

「呉一郎の頭か。それは回復するとも……私には自信がある。」

そう言い放った正木博士は、皮肉な表情でニヤニヤと笑い、私の顔を透かして見るような暗い眼差しを真正面から向けてきた。

「呉一郎の頭が回復するのは、ちょうど君の頭が回復するのと同時だろうと思うがね。」

私は再び呉一郎と自分が同一人物であるかのような暗示を受け、ドキリとした。さらに、二人の頭の病気が全く同じ経過を辿って回復していくという正木博士の言葉に、言い知れぬ不気味さを感じた。それでも、私はさりげなくハンカチで顔を拭きながら再度尋ねた。

「でも、なかなか困難でしょうね。」

「何の訳もない。発病の原因と経過が、今まで述べてきたように精神病理学的に明確であれば、治療法もちゃんとわかってくる。特に呉一郎のように、原因がはっきりした精神的異常が治らなければ、私の精神病理学は机上の空論だ。」

「それで……どんな方法で治療するのですか?」

「うん。適当な暗示という薬を臨機応変に用いて治療するのだ。それも禁忌や祈祷のような非科学的なものではない。つまり、今まで話してきたように、呉一郎は梅毒や結核といった肉体的疾患に影響されて神経を狂わせたのではない。純粋な精神的暗示だけで発狂したのだ。呉一郎はこの絵巻物を見た後、時間も空間も、自分も呉青秀も、中国も日本もわからなくなり、ただ濃厚で深刻な中国一流の変態的性欲の刺激と、それにまつわる錯覚や幻覚、倒錯観念だけで生きることになった。そしてその変態的性欲も、呉青秀が千年前に辿った通りの順序で変化し、最終的にはただ『女の屍体が見たい』という単純で率直な欲望だけになっていたことが、治療の場での夢中遊行の状態から察せられるようになった。呉一郎の遺伝的な殺人妄想、早発性痴呆、変態的性欲……すなわち千年前の呉青秀の怨霊の目で見ると、世界中の土の下には女の死体が隠されているように思われてきた。だから土を見ると鍬が欲しくなったのだ。そして鍬をもらうと、毎日死物狂いで土を掘り返すことになったのだ。

こうして、時間も空間も超越した変態的性欲の幽霊が、先ほども話した通り、毎日毎日、無目的な労働を続けていくうちに、次第に疲れが出てきた。人間の性欲を刺激するホルモン、俗に精力と呼ばれる内分泌の刺激液は、激しい労働を続けるとその方の精力に消耗されてしまうのだ。そんな性欲の刺激を次第に感じなくなり、ただ疲れ切った神経の端々に、惰性のように浮かび上がる女の屍体の幻覚に引き寄せられながら、喘ぎ喘ぎ鍬を動かすという惨めな状態に陥っていた。今まで全ての精神作用を圧倒していた変態的性欲の怨霊が消えかけてきたおかげで、その下から……ああ苦しい。どうしてこんなに過酷な労働を続けなければならないのか……といったような、正気に近い意識が次第に浮かび上がり始めた。時々鍬を休めてぼんやりと周りを見回し、また思い出したように仕事に戻る様子が見えてきた。そのタイミングを見計らって、私は出て行き、その疲れ切った意識の力と、私の理知的な意識力を合わせながら『その女の屍体が、土の底に埋まったのはいつのことだ』と問いかけた。すると、さあわからなくなった。つまり今まで全く忘れていた『時間』という観念が、『いつ』という言葉の暗示力で反射的に復活しかけてきたのだ。それに伴い『ここは一体、どこなんだろう』という空間的な観念も動き出し、不思議そうに周りを見回し始めた。同時に『おかしいぞ。自分は今まで何をしていたのだろう』という自己意識も、それに伴って頭をもたげてきたので、なんとなく不可思議で寂しい気持ちになった。悲しげに首を垂れ、今まで大切に抱えていた鍬を力なく落として、自分の部屋へ引き込んでいった……というのが、この遺言書に出ている呉一郎の治療の過程の説明だ。狂人の解放治療というのは、こうした患者の自由行動に現れた心理状態を観察し、病気の経過を察しながら、適当な暗示を与えつつ治療していく意味から名付けられたものに他ならない。

もちろん、こうした治療法を試みるには、相当な知識が必要だ。少なくとも、今までのように当てずっぽうの病名を付けて、浅薄な外科や内科の療法を応用したり、それがうまくいかなかった時には縛り上げたり監禁したりするような原始的な手当を試みるような低級な頭では駄目だ。今後の世界で行われるべき正しい精神病の治療法は、そんな曖昧なものではない。つまり、精神というものの解剖、生理、病理の原則を、心理遺伝の学理に照らして徹底的に理解し、解放された患者の自由奔放な一挙一動によって、その心理遺伝の夢中遊行発作がどのように推移し変化しているかを隅々まで見抜き、適切なタイミングで適切な暗示を与え、一歩一歩と正しい時間と空間の観念、すなわち正気へと導いていくための鋭敏さを持った頭でなければならない。ああ、思わず自分の話に脱線してしまったが……さて、話を戻そう。