ドグラ・マグラ (23/47)
von 夢野久作
まず、右目の縁にメスを突き立てると、まるで博士特有の毒物反応検査を行うかのように、両目をぐるりと抉り出してしまいました。しかし、いつものように眼底を調べることもなく、そのまま元の眼窩に押し戻しました。次に、鼻梁の中間部分を、奥の粘膜が見えるまでガリガリと切り裂きました。そして、唇の両端を耳の近くまで切り裂き、咽頭が見えるまで下顎を引き剥がしました。
屍体の顔は、こうして人間とは思えないほど変形してしまいましたが、黒衣の巨人はそれを一つ一つ元通りに縫い合わせていきました。ホッと一息つく暇もなく、ガーゼと海綿を取り上げ、アルコールをたっぷり含ませて汚れた部分を丁寧に拭き上げると、今までとはまるで違う、誰が誰だかわからない奇妙な姿の屍体が完成しました。
黒衣の博士はここでようやく一息つき、解剖台の上と下に横たわる二人の少女の肉体を何度も見比べていました。そのうちに、二重の手袋を脱ぎ捨て、傍の机の上にある固練白粉を手のひらで溶きながら、一滴もこぼさないように注意しつつ、414号の少女の顔、両肩、両腕、そして腰から下全体に化粧を施し始めました。
その手つきを見てください。粗い縫い目や毛髪の生え際に白粉が残らないように、繊細に指を動かしている様子は、まるでこの化粧品を扱い慣れているかのようです。おそらく、この博士が自身に何度も変装した経験があるからでしょうか。それとも、彼の裏の性格から来た変態的な趣味と法医学的な研究趣味が相まって、数千年前の「ミイラの化粧」という怪奇趣味にまで高まっていたのかもしれません。
いずれにせよ、青黒い、あるいは茶色に変色した虐待致死の傷跡を砥の粉で隠し、皮膚の皺や包帯の痕を伸ばして白粉を施す手際は実に驚くべきもので、遊廓の娼妓が隠蔽する手段から学んだのかもしれません。ついに、黒い傷だらけの少女の肌を、白い少女の皮膚の色と変わらない程度にまで美しく塗り上げました。その後、口紅、頬紅、黛、白粉を次々と取り上げ、身体各部の微細な色の変化を再現し、大小の黒子までを一つ残らずモデル通りに染め上げました。全身の毛も、床の上の少女と比較しながら、理髪師も及ばぬほど巧みに染め上げ、香油を施しました。
すると今度は、近くの机の引き出しを開けて赤、青、紫、その他の検鏡用のアニリン染料を梅鉢型のパレットに取り、新しい筆でちょいちょいと配合しながら、首の周りの絞殺の痕を実物と寸分違わぬ色と形に染め始めました。これもまた、実に巧妙で精緻なもので、浮き上がったような蚯蚓腫れや蜥蜴のような血斑が、見る間に首の周りを取り巻いていきました。
しかし、黒衣の博士の怪しい事業はまだまだ続いているようです。彼は急いで二重の手袋を再びはめ直し、机の下から一包みの包帯を取り出しました。その包帯で化粧済みの屍体の顔から頭にかけて真っ白に巻きつけてしまいました。続いて、首、肩、上腕部、胸、腹部、両脚と順に全身を巻き上げると、まるでミイラの出来損ないか、子供が作るテルテル坊主のような姿になってしまいました。
次に、寝棺の中に横たわる美少女の派手な下着を剥ぎ取り、白い布に着せ、その上から緋鹿子絞りの帯をきつく巻き付けました。その姿の奇妙さ、滑稽さ、そしてそれを見下ろす黒衣の博士の物々しい妖異さは、まるで異世界の光景のようでした。
しかし、テルテル坊主の屍体には、まだ節の高いカサカサに荒れた両手が突き出たまま残っています。どうやってこれを隠すのかと見ていると、さすがは絶代の怪人物、黒衣の博士です。何の造作もなく、その両腕の肘の関節をポキンポキンと曲げて合掌させ、白い綿でしっかりと縛り包んでしまいました。なるほど、これなら大丈夫だと思っていると、同じく隠しようのない皸だらけの足のかかとも、美少女の小さな足袋の中に無理やり押し込み、しっかりとコハゼをかけてしまいました。
そして、ついに強直した艶めかしい姿の白い布を抱き上げ、寝棺の中にそっと落とし込みました。三枚襲ねの振袖と裲襠を逆さに着せ、糸錦の帯で巻き上げると、今度は大量のスポンジと湯、水、石鹸、アルコールで解剖台を隅々まで洗い清めました。その後、意識を取り戻しかけている美少女の裸身をそっと抱え上げ、下敷きになっていた分厚い棺の蓋をテルテル坊主の上にしっかりと当てがい、その上を白い絹の布で包みました。
しかし、黒衣の博士の怪しい事業はまだ終わっていません。今度こそ、彼の真の怪事業が現れようとしています。
黒衣の巨人は、寝棺と解剖台の間に立ち尽くし、肩を震わせながら一息ついた。彼は急いで手袋を脱ぎ捨て、鋏を手に取った。解剖台の上に横たわる少女の長い髪を掻き分け、中心の部分を一束切り取った。それを半紙で包み、屍体検案書や文房具と一緒に、先ほどの屍体台帳の横に並べた。
彼は鉄製の円形の椅子を引き寄せ、新しい筆を取り墨汁を含ませた。そして、包んだ半紙の上に「遺髪」「呉モヨ子殿」と丁寧に書いた。しばらく時計を見つめ、考え込む様子を見せたが、屍体検案書の記入は後回しにすることに決めたのか、そっと横に押しやった。屍体台帳を広げ、その中央近くにある「四百十四号……七」と書かれた一枚を、他の書き込みと一緒に丁寧に破り取った。
次に、別の皿に墨汁を溶かし、様々な墨色を作りながら、破ったページと同じ筆跡で十数個の屍体に関する名前や年月日、番号などを書き込んでいった。しかし、「四百十四号……七」に関する記入は全て飛ばし、次の「四百二十三号……四」の分を記入し、一つ一つに「若林」という認印を押した。こうして、寝棺の中に納められたばかりの少女の変装屍体に関する記入は、この屍体台帳から完全に消し去られてしまったのだ。
皆さんはここで、若林博士の苦心惨憺の怪業が何を意味していたのかを、明確に理解されたことでしょう。美少女、呉モヨ子の身代わりとして棺の中に納められているのは、もともと身寄りのない、行方も知らぬ少女の虐殺屍体であり、こちらから通知を出さない限り、遺骨を受け取りに来る者はいないことが容易に察せられる。
一方、大学内で解剖された人間の身寄りの者は、大抵その翌日には遺骨を受け取りに来るように通知が出される。しかし、実際には解剖が終わるとすぐに、裏手の松原にある大学専用の火葬場の人夫が受け取りに来て、立会人もなしに荼毘に付される。灰になった骨と保存してあった遺髪だけが、受け取りに来た者に渡されるという、一般の火葬とは全く異なる制度があるため、屍体の替玉に気づかれる心配は万に一つもないと言えるだろう。
もちろん、火葬の前に再度、死人の顔を見せてくれと要求する親が現れる可能性は否定できない。しかし、仮にそのようなことがあったとしても、メチャメチャに縫い潰された顔を見せられたら、肉親の者が二度と見ようとは思わないだろう。
ただ一つ懸念されるのは、関係者や医師が念のために検分に来る場合である。しかし、これほどに巧妙で精緻な手を入れた替玉を見破ることができるだろうか。いずれにしても、若林博士はその人格や名声において、天下に名を馳せる人物であり、九大医学部長の職権を利用して、念を入れすぎるほどに仕上げた仕事であるから、誰も疑念を抱くことはないだろう。
九大の屍体冷蔵室での屍体紛失事件が、若林博士以外にはただ一人の医員に不審を抱かせたまま、永遠の闇に葬られていく頃、行方不明になった少女の虐殺屍体は、すでに一片の白骨となり、立派な墓の下に葬られ、香華を手向けられているのだ。
同時に、解剖台の上で気息を取り戻しつつある少女、呉モヨ子という名の美少女は、戸籍上から抹殺された生きた亡者となり、あの蒼白で長身の若林博士の手中に握られ、呼吸をしている。しかし、それが後に何の役に立つのか、若林博士は何の目的でこの少女を生きた亡者にしてしまったのか。その説明は後のお楽しみだが、実はこの時、天井裏から覗いていた正木博士にも全く見当がついていなかったのだ。おそらく、皆さんも同様であろう。
しかし同時に、新聞紙上で迷宮破りと称賛される若林鏡太郎博士が、これほどの惨憺たる苦心と超常識的なトリックを用いて挑戦している事件の内容や、その犯人の頭脳がどれほど怪奇で不可解なものであるかについては、十分な期待が寄せられていることと思う。そして、この期待に背かない驚くべき事件の内容と、その過程が、順を追って皆さんの前に展開されるのも、そう遠くないことであろう。
つまり、事件はすでに九大法医学部の解剖室内の黒い怪人物、若林博士の手に落ちている。そして、同博士は今、一代の智脳と精力を傾注し、その怪事件を引き起こした裏面の怪人物に対する戦闘準備を整えているところだ。
こうして屍体台帳の書き換えを終えた若林博士は、その台帳を無記入の屍体検案書と一緒に無造作に机の上に投げ出した。疲れ切った身体を起こし、室内に散らばったガーゼやスポンジ、脱脂綿を一つ残らず拾い集め、文房具や化粧品と共に新しい晒布に包み込み、繃帯で厳重に括り上げた。おそらく、どこかに人知れず投棄し、今夜の仕事を秘密にする計画であったのだろう。四百十四号の屍体の各部位の標本を取らなかったのも、そうした考えからではなかったかと考えられる。
若林博士は、仕事を終えた後、改めて周囲を見回しました。そして、傍に置いてあった新しい看護婦の服と白木綿の着物を手に取り、まだ麻酔から覚めていない少女に着せるために解剖台に近づきました。しかし、彼は思わず立ち止まりました。手に持っていたものを落としそうになり、後ろにふらふらとよろめきました。
少女の全身に宿る美しさに、彼は驚愕しました。仮死状態の時とはまったく異なる、清らかな生命の光が、彼女の体全体を輝かせているように見えました。頬は、唇は、まるで香り高い花弁のように、または甘いジェリーのように、温かな血の色に戻っていました。特に、その愛らしい形の乳房は、神秘の国から生まれた大きな貝のように、活き活きとした薔薇色で盛り上がり、煌々とした光の下で夢のような心をかき立てていました。
冷たく物々しい九大法医学部の解剖室の大理石の上に、再び見ることのないであろう絶世の美少女の麻酔姿が横たわっています。その清らかな胸に波打つふくよかな呼吸は、地上の何者も平伏させてしまうほどのものでした。
その呼吸の香りに酔ったかのように、若林博士はふらふらと立ち直りました。そして、少女の呼吸に共鳴するような弱々しい喘ぎを、黒い肩の上で感じ始めました。上半身を少し前に傾け、力なく震える指先で、彼女の顔を覆っている黒い布を額の上に押し上げました。
その表情の物凄さに、彼は言葉を失いました。白熱灯の下に現れた彼女の長い顔は、解剖台の少女とは正反対に、死人のように疲れ果て、青白い汗に濡れていました。彼女の目には、極度の衰弱と興奮が混ざり合い、熱病患者のように血走って輝いていました。唇には、普通の人には見られない緋色が病的に乾いていました。その表情は、黒い髪が額に粘りつき、こめかみが波打つように見えました。
彼はしばらく動けずにいました。何を考えているのか、何をしようとしているのか、全く分からないままでした。
その時、突然、彼の右目の下に深い皺が刻まれ、痙攣し始めました。顔全体にその痙攣が広がり、泣いているのか笑っているのか分からないまま、蒼白な顔色の中で、左右の赤い目が交互に開いたり閉じたりし始めました。何かを喜ぶように、緋色に乾いた唇が狼のように大きく開き、白茶けた舌がだらりと垂れました。それは、普段の謹厳な若林博士を知る者が夢にも想像できない別人の顔、彼が一人の時だけ現れる悪魔のような形相でした。
しかし、彼はゆっくりと顔を上げました。乾いた額の乱れた髪を両手で押し上げ、青白い瞳を上に輝く四つの電球に向けました。
その少女の呼吸は、再び次第に高く喘ぎ始めました。頬には異様な赤みがさし始め、まるで空中の何かと話しているかのように目を細め、腹の底から低い気味の悪い音を立てながら、切れ切れに笑っていました。
「……アハ……アハ……アハアハ……」
やがて彼は唇を噛み締め、美少女の寝顔を見下ろし、震える指を上げて、頭上の電灯のスイッチを一つ、二つ、三つと切り、最後に四つ目をパッと消しました。
しかし、室内は元の闇には戻りませんでした。閉じられた窓の隙間から、明け方の光が白々と流れ込み、室内のすべての物を、まるで海底のように青々と透き通らせていました。
彼はその光を茫然と見つめていましたが、やがて両手の指を震わせながら、顔に押し当てました。よろよろと後ろにふらふらし、壁にぶつかりました。そのまま床に座り込み、失神したように両手を床に落とし、両脚を投げ出して、ぐったりと項垂れてしまいました。
その時、解剖台の上にいる少女の唇が微かに動き始めました。ほのかな、夢のような声が漏れました。
「……お兄さま……どこに……」
【字幕】 正木若林両博士の会見。
次に映し出されたのは、九州帝国大学精神病学教室の教授室で居眠りをしている正木博士の姿でした。時は大正十五年の五月二日、前回の映画で若林博士の屍体スリ換えの場面が収められてからちょうど一週間目の、晴れた午後のことでした。教授室の三方の窓には、強い日差しを受けた松の緑が眩しく揺れ、早くも暑苦しい松蝉の声が聞こえてきました。南側に並んだ窓の一つ一つには、胡粉絵のような五月晴れの空が広がり、その下を吹く明るい風が、工事中の解放治療場の作業音を次々と運んできました。
正面の大卓子と大暖炉の間にある巨大な肘掛け回転椅子に座っている正木博士は、白い診察服の右手の指に葉巻の吸いかけを挟み、左手には当日の新聞を持ちながら、鼻眼鏡をかけたままコクリコクリと居眠りをしていました。読みかけの新聞の裏面には「花嫁殺し迷宮に入る」という見出しが大きく掲げられています。その時、大暖炉の上の電気時計がカチリと音を立てて三時三分を指すと、大学の制服を着た四十代の小使が、一枚の名刺を持って入ってきました。彼は恭しく正木博士の前にその名刺を差し出しました。
扉が閉まる音で目を覚ました正木博士は、その名刺を受け取ってちらりと見ましたが、どうやら不機嫌そうに両目を細めました。
「なんだ、何度言っても分からない唐変木だ。馬鹿丁寧にも程がある。こんなものを一々持って来なくても、黙って勝手に入って来いと言え。」
その名刺を大きな卓子の上に投げ出し、彼は威張った様子で目を閉じ、またウトウトと眠りに落ちてしまいました。
その時、青いメリンスの風呂敷を大切そうに抱えた若林博士が、静かに長いフロックコートを着て部屋に入ってきました。彼は正木博士と向かい合う小さな回転椅子に腰を下ろしました。矮小な正木博士が大きな椅子の中で小さくなっているのに対し、巨大な若林博士が小さな椅子に恭しく座っている様子は、まるで絶好の漫画の一コマのようでした。やがて若林博士は、持病の咳に悩まされ、白いハンカチを口に当てながらゴホンゴホンと苦しみ始めました。
正木博士はその騒ぎでようやく目を覚ましたようで、新聞と葉巻を空中に投げ上げ、目の前の若林博士を見つめ、さらにはこの部屋も、九州大学も、そして自分自身までも飲み込んでしまいそうな大きな欠伸を一つしました。
こうして、事件が起こった後の二人の博士の最初の会話は、この大欠伸によって始まったのです。表面上は何の隔意もないように見えましたが、その裏には互いに痛烈な皮肉を含ませ、できるだけ深刻に相手を脅かそうと火花を散らしている様子が伺えました。この事件の背後に潜む暗い流れがどれほど大きく、深いものであるかを、皆さんも察することができるでしょう。
「アーッ……アーッと。ついにやって来たね。ハハハ、もう来る時期だと思っていたよ。」
「ハア……では、もう事件の内容は知っているのですね。」
「知っているよ、これだろう……花嫁殺し迷宮に入る……無論、記事の内容には無駄が多いだろうが。」
「そうですか……しかし、私がこの事件に関係していることは、どうしてご存じで?」
「この間、君に電話をかけたら、午後の講義をぶっ潰して、自動車でどこかに飛んで行ったというから、何か始まったなと思っていた。そして、その日の夕刊に『結婚式の前夜に花嫁を絞殺』という特号の記事が出たから、君がこの事件に関わっていると察したんだ。」
「なるほど。しかし、今日私がこちらに伺うことは、どうしてご存じで?」
「うん、今日かいつか来るとは思っていたよ。この事件は、例の心理遺伝に違いないと最初から睨んでいたからね。君が調べ上げて、私のところに持ち込んでくるのを実は待っていたんだ。ハハハ。」
「恐れ入ります。お察しの通りで、実は私は二年前からこの事件に関係しておりましたので……」
「えっ、二年前から?」
「はい、そうです。」
「……ふーん。二年前にも、こんな事件があったのか。」
「はい、それも同じ少年が、実母を絞殺した事件です。」
「うーむ。同じ奴が、同じ手段で……しかも実母を……うーむ。」
「実はその時、私はこの事件に関わることになり、この少年が殺したのではないと主張していたのですが、その犯人がその後どうしても見つかりませんでした。」
「君の鋭い目でかい?」
「……お恥ずかしい限りですが、このような難解な事件に接したのは初めてで、何と説明したら良いのか……犯跡は明らかに残っているのに、犯人が見当たらないという状況です。」
「……ふーん。面白いな。」
「その少年が前回の実母絞殺事件で無罪になった後も、私は決して安心せず、何とかして犯人の目星をつけたいと考えました。その結果、被害者の実の姉で、少年の伯母にあたる八代子という人や、警察とも連絡を取り合い、この少年の行動に少しでも変化があれば、すぐに知らせてくれるように頼んでいました。常に注意を払っていたのですが、二年後の今日、また同じ少年が今度は自分の伯母であり、花嫁となるべき呉モヨ子という少女を結婚式の前夜に絞殺しました。二年前の実母殺しも、やはりこの少年が同じような精神病的発作に駆られてやったものに違いない……ということになりました。そのおかげで、二年前に『この少年の母を殺した犯人は別にいる』と私が言った言葉は、今やすっかり信用を失っているようです。」