ドグラ・マグラ (22/47)
von 夢野久作
深夜の静けさの中、若林博士は黒い装束を身にまとい、目の前に横たわる美少女の屍体と向き合っていた。彼の心の中には、何が渦巻いているのだろうか。この少女の死にまつわる残酷で奇妙な事情を再考し、彼独自の鋭い観察力をもって真実を見出そうとしているのだろうか。それとも、彼女の無残な美しさと深い魅力に心を奪われ、思わず恍惚としているのだろうか。いや、そのような想像は、彼の厳格な人格に対して失礼にあたる。これ以上は踏み込まないことにしよう。
その時、若林博士は突然我に返り、誰もいないはずの教室を見回した。彼は黒装束の右ポケットに手を突っ込み、何かを探し始めた。しばらくして、彼は思い出したように棺に近づき、美しく重ねられた着物の下から、子供の玩具ほどの大きさの黒い喇叭型の筒を取り出した。これは、古い聴診器であり、人体の微細な音を聴き取るには、現代のゴム管式よりも優れている。若林博士は、その小さな一端を少女の左乳房の下に当てがい、もう一端を覆面の下から自分の耳に押し当て、集中して聴き入っていた。
屍体の心音を聴く。何という奇妙な行為だろう。見ている者の胸が、逆に恐怖で高鳴るほどだ。
しかし、若林博士は驚く様子も見せず、聴診器を耳から外すと、懐中時計を取り出し、じっと見つめた。確かに心臓の鼓動が聞こえている。この少女の肉体は、まだ生きているに違いない。先ほど、博士が少女の全身を検査した際、死後の特徴である薄青い死斑が見当たらなかったことを思い出す。強直した様子もなかった。つまり、この少女は棺に納められる前から、死んではいなかったのだ。頸部には明らかな絞殺の痕が残っている。
何という不可思議な出来事だろう。
若林博士は特に驚いた様子も見せず、満足げにうなずきながら再び少女の姿を見下ろした。彼の態度から察するに、最初にこの少女の屍体を検査した時から、彼女が医学上稀有な仮死状態にあることを見抜いていたのだろう。もちろん、それは他の医師や警察医が十分に診察を終えた後のことだが、彼はどの点に着目して仮死であることを確認したのだろうか。そして、どうしてこの少女の仮死体を棺に詰めてこの部屋に運び込んだのか。さらに、彼女の仮死体を一人で秘密裏に扱っている理由と目的は何なのか。尋ねる術もないが、若林博士は古今東西の仮死の例証を研究し尽くしているはずだ。この少女の屍体が仮死体であることを、自分だけの秘密にしておくことが、この空前の怪事件を解決するために必要な理由を彼自身が確認しているのだろう。
それだけではない。若林博士は、闇の中に潜んでいた際、棺の蓋を静かに開けてこの少女を仮死状態から覚醒させるために、独自の刺激手段を施し、時折聴診器で心音を窺っていたことが明らかだ。先ほど、彼が時計の音を聞いて電灯を点ける前に、何か音を立てたのは、棺の蓋を閉じた音に違いない。聴診器もその時に置き忘れたのだろう。しかし、こうした大切な道具を置き忘れることは、普段の彼の冷静さから考えると意外な出来事だ。今夜の若林博士は、確かに普段とは違う心理状態にある。彼がどれほど夢中になってこの少女をこの世に呼び戻そうと闇の中で苦心していたかは、この一事からも十分に察せられる。
だが、若林博士の手腕がどれほど卓越したものであるかは、これから明らかになっていくのだ。今までのところは、ほんの序章に過ぎない。
若林博士は、解剖台の上に横たわる少女が、仮死状態から少しずつ意識を取り戻していることに気づくと、緊張した面持ちで手袋を脱ぎました。彼は解剖着の下にある丸いポケットに手を突っ込み、様々な品物を取り出しては、傍の木の机の上に並べていきます。白髪染めの薬瓶や竹製の歯ブラシ、新しい筆が数本、小さな墨汁の缶、頬紅や口紅が入ったコンパクト、化粧水、香油、クリーム、練白粉など、どれもこのような部屋には似つかわしくない品々でした。
さらに、入口近くの棚の奥に隠されていた茶色の紙包みを開くと、中から白い綿とネルの筒袖の着物、安っぽい博多織の腰帯、都腰巻、白い看護婦服と帽子、一揃いのバンド、スリッパ、看護婦帽、ヘアピンなど、すべて新しいものが出てきました。これらの品々は、昼間から準備されていたもので、恐らく解剖台の少女に着せるつもりだったのかもしれませんが、何のためにそんなことをするのかはまだ明らかではありませんでした。
次に若林博士は、再び聴診器を取り出し、少女の心音を念入りに確認しました。そして、向こうの薬棚から小さな茶色の瓶を取り出し、中の無色透明な液体を、顔を少し背けながら脱脂綿の上にポトポトと滴らせました。それを、まだお白粉の残る少女の鼻に近づけつつ、左手で静かに脈を取っていました。これは麻酔剤を嗅がせているのです。あまり早く少女が目覚めては困ることがあるようです。しかし、少女を麻酔させておいて、博士は一体何をしようとしているのか、その意図は依然として不明でした。若林博士の行動は、ますます奇怪に思えてきました。
麻酔剤を嗅がせ終わった若林博士は、少女の胸を掻き合わせると、今度はツカツカと正面の薬棚に近づき、隅に突っ込んであった美濃型の帳面を一冊取り出しました。その表紙には「屍体台帳……九大医学部」と大きな字で書かれており、開くと各ページには「屍体番号」「受取年月日」「引取人住所氏名」「引渡年月日」などが整然と記入されており、若林の検印が押されていました。
帳面の半分近くまでページを繰っていった若林博士は、最終から二番目の屍体番号「414」と容器番号「7」を指で押さえ、帳面を傍の机に投げ出しました。そして、長い手を伸ばし、頭上の二百燭光のスイッチを四つとも切ってしまいました。
室内は、再び闇に包まれました。
その闇は、他の部屋の闇と入れ替わるように続いていきますが、一体どんな意味の闇が待ち受けているのでしょうか……【暗転】
……闇のフィルムが依然として目の前に続いていきます……十尺……十五尺……三十尺……五十尺……その闇の核心に、やがて黄色い小さな薄汚れた電球が灯りました。そこには、どこかの鍵穴から覗いた陰気な室内の光景が現れました。
……皆さん、このような部屋を見たことがありますか。
右手に見えるコンクリートの暗い階段は、この部屋が地下室であることを示しています。正面に並んだ白ペンキ塗りの十数個の大きな抽斗は、すべて屍体の容器です。つまり、この部屋は九大医学部長の責任管理の下にある屍体冷蔵室で、真夏の日中でも肌が粟立つほどの低温を保っていますが、特に今は深夜のため、その気味の悪い静けさは、死人の呼吸すら聞こえるかのようです。
ここに姿を現した責任者、医学部長の若林博士は、冷気に打たれたのか、しばらくの間、苦しい咳を続けましたが、やがてそれを押し鎮めると、ポケットから合鍵を取り出し、「7」と番号の付いた屍体容器に取り付けられた堅固な南京錠を外しました。それから、車仕掛けの頑丈な容器をゴロゴロと引き出しましたが、一息つく間もなく、上半身を傾けて全身を包帯で巻かれた少女の強直した屍体を床に抱え下ろしました。その屍体は、先ほどの仮死体の少女とは似ても似つかぬ黒い醜い顔立ちでしたが、年齢や背丈、肉付き、生え際などは、どうやら似通っているようでした。
若林博士は前からこの屍体に目をつけていたようで、よく検めもせず、少しの躊躇も見せずに容器を元に戻し、南京錠をかけると、その屍体を材木のように担ぎ上げ、コンクリートの階段を一歩一歩昇りながら、片手で壁際のスイッチを切り、地下室の電灯を消しました。【暗転】
ここでもしばらくの間、闇の場面が続きますが、しかし……あの夥しい犬の吠え声をお聞きください……。
あれは、今の屍体冷蔵室と法医学教室の裏手に広がる松原の暗闇を、人目を避けながら屍体を運ぶ若林博士の異様な姿を、近くの実験用動物の檻から見つけた野犬たちが吠え立てている光景でした。その周囲では、狂ったように叫ぶ猿たちの声が響き渡り、のんびりとした羊や鶏たちも目を覚まし、限界まで声を張り上げていました。暗闇の中の騒がしさは恐ろしいものでしたが、こうした動物たちの騒ぎはほぼ毎晩のことだったため、誰もがそれを不審に思うことはありませんでした。ましてや、堂々たる大学の医学部長が、自らの責任で管理している屍体をこっそりと盗んでいくなどという前代未聞の事実を誰が想像できるでしょうか。九州帝国大学の春の夜の闇は、動物たちの絶叫や悲鳴の中で、ますます静まり返っていくばかりでした。
やがて、その声が次第に遠ざかり、静けさが戻ったかと思うと、突然、四つの二百燭光の電灯が点き、場面は以前の法医学の解剖台のところに戻りました。
見ると、四百十四号の少女の強直した屍体が、コンクリートの床に横たわっていました。一方、入口の扉を厳重に鎖し終えた若林博士は、解剖台の前に立ち尽くし、黒い覆面の下から汗を押さえながら息を切らしていました。
大正十五年四月二十七日の夜、九大法医学部の解剖室には、こうして二体の少女の肉体が並べられていました。一方は美しく蘇りかけている少女、もう一方は醜く強直している少女です。その中でも、解剖台の上に紅友禅を引かれた少女の肉体は、ほんの少しの間に著しく血色を取り戻し、麻酔をかけられたまま細々と呼吸を始めている様子が見て取れました。その豊かな胸の上下が見えるほどです。その異常な平和さ、なまめかしさは、台の下にある醜い少女の顔と対照的で、その美しさは一層際立ち、ほとんど気味が悪いほどに感じられました。
脈を取った若林博士は、時計の秒針とにらみ合いながら麻酔の効果を検査し始めました。真っ黒な博士の姿が、心持ち頭を傾けたまま、石像のように動かなくなると、それに伴い、この室内の空虚が、まるで地下千尺の墓穴のような、言い知れぬ静寂に満たされていきました。
そのうちに、脈を取っていた少女の手を投げ出し、時計をポケットにしまった若林博士は、その少女の身体をそっと抱え上げ、部屋の隅にある寝棺の蓋の上に寝かせました。そして、代わりに四百十四号の少女の強直した屍体を解剖台の上に抱え上げ、凹字型の古びた木枕を頭部に当てがいました。大きな銀色の鋏を手に取り、全身を巻きつけている繃帯を次々と切り開いていきました。すると、蒼黒い少女の皮膚の背中から胸、胸から股へと、縦横に打ち付けられた大小さまざまな傷痕が現れました。殴打や烙印、擦り傷の跡が、褐色、黒色、暗紫色の直線や曲線として、腰部に現れた著明な死斑とともに、煌々たる白光の下に照らし出されると、まるでそのままの色と形の蛇や蜥蜴、蟇が、今にも彼女の皮膚の上を這い回り始めるかのように見えました。
全国の大学や専門学校の研究用解剖屍体には、こうした種類の屍体がよく持ち込まれます。特にこの九大に収容されるのは、同地方に多い炭鉱や紡績工場、さらには魔窟に誘拐され虐待されたものや、自殺者、行路病者など、さまざまなケースにわたります。中には引き取り手のないものも珍しくなく、九大ではそうした屍体を研究材料として切り散らし、大学附属の火葬場で焼いて骨にし、五円の香典を添えて遺族に引き渡します。また、引き取り手のないものは共同墓地に埋められ、年に一度の供養法会が行われることになっていますので、この屍体もそうした一つと考えられます。
こうして屍体の全身を手早く検査し終えた若林博士は、再びホッと息をつき、覆面越しに顔の汗を押さえました。やがて、部屋の隅の洗面器のところに近づき、水道栓から直接水を飲み、むせ返りながら呼吸を整え、しばらくの間息を整えていました。長年の肺病に悩まされ、衰弱を重ねている博士にとって、これだけの労作はどれほど辛く、骨身にこたえたことでしょう。
しかし、博士の奇怪な仕事は、まだ半分も進行していないのです。
ほどなく洗面器のところから引き返した若林博士は、まず屍体の足元にボール鉢を置き、そこに取り付けてある水道栓のホースを突っ込み、屍体の脚部から背中にかけて解剖台面に水を流し始めました。次に、もう一つのボール鉢に湯を取り、スポンジと石鹸を使って解剖台上の少女の虐殺された屍体を丁寧に洗い浄めました。さらに、その皮膚の全面をガーゼと脱脂綿で拭い乾かし、その貧しい赤茶色の髪の毛を真っ二つに分け、傍に光り輝くメスを手に取ると、屍体の眉間をブスリと一突きしました。それから、次第に後頭部に至るまで、頭の皮を一直線に切り開いていきました。
ここで、多少この方面に関する知識を持っている方は、「おや」と思われることでしょう。若林博士のこのやり方は、通常の屍体解剖の手順である胸部、腹部から頭部、次に背部という順序を無視して、頭部から始めているからです。
若林博士は、名高い法医学者として知られていたが、今夜の彼の行動は、誰もが驚くようなものであった。彼は何の目的で、こんなにも無造作な手順でメスを振るい始めたのか、疑問に思う間もなく、少女の頭皮は巧みに裏返され、髪の毛とともに、まるで靴下を脱ぐかのように、両目の下まで引き剥がされてしまった。
その下から現れた白い坊主頭を、若林博士は鋸で鉢巻のように切り取った。続いて、現れた脳髄を器用に手にした器具で硝子の皿に取り出し、彼は何を考えているのかと思っていると、意外にも彼はまるでビフテキやオムレツでも扱うかのように無関心に脳を宙返りさせ、再び頭蓋骨の中に戻してしまった。頭皮と髪を元通りに覆い、針と糸を使って粗雑に縫い合わせるその手際は、まるで機械的だった。
これは驚くべきことだった。若林博士は厳格で正義感の強い人物として知られていたが、なぜ今夜に限って、こんなにも不誠実な解剖を行うのか。疑念を抱いていると、屍体は再びゴロリと俯向けにひっくり返された。すると、傷だらけの背中の中央、脊椎の筋肉が鋸でゴリゴリと切り開かれた。若林博士は二股の鋸を使って左右の肋骨を取り除き、背骨を縦に真っ二つに切り開いたが、ほとんど検査もせずに元の位置に戻し、太い針でブスブスと縫い合わせてしまった。その手際の荒さは、前と同じように見えた。
次に、若林博士は再び屍体をあお向けにし、汚れた部分を洗い流してから、腹部の皮の厚さを確認しようとしていた。新しいメスを手に取り、咽頭に一突き。乳の間から鳩尾腹部へと切り進み、臍の位置を左に半回転させ、恥骨のところまで一息に切り下げると、胸の軟骨を外し、胸骨を取り除いた。両手を巧みに動かしながら、胸壁から腹壁まで開いていく。その一刀で腹壁と腹膜が同時に切り開かれ、内臓には一切の傷がなかった。五臓六腑が整然と配置され、蒼白い光を放っている様子は、気味悪くもあり、恐ろしさを感じさせた。
肺の一面に見える黒い汚れは、この少女が炭坑で働いていたことを示し、致命的な原因である肝臓の破裂と内出血は、彼女が受けた虐待の激しさを証明していた。しかし、若林博士はそんなことには目もくれず、内臓を手当たり次第に回転させたり掻き乱したりした。最後に胃袋や腸、膀胱を形式的に切り破ると、普通の解剖のように各臓器の一部を標本に取ることもせず、再び太い針と麻糸を手に取り、下腹部から順に咽頭部まで縫い上げていった。その間の刀の振る舞いは残忍で痛烈であり、針と糸の使い方は驚くほど巧妙で迅速だった。
その手付きや態度には、たまらないほどの満足感が漂っていた。まるでこの仕事によって、何か深刻な欲望が満たされているかのように見えた。若林博士の様子を見ていた者たちは、彼の態度が平常の冷静さを失い、まるで別人のように残忍で酷烈な興味に駆られた元気な人間に変わっていることに気づいていた。
しかし、これは決して奇妙な現象ではない。昔から、ある仕事の達人や技術の名人が、自分の仕事に没頭するあまり、異常な興奮に駆られ、常識を超えた行動を取ることは多くの例がある。若林博士のような特殊な体質と頭脳を持つ人間が、古今に類を見ない事業、すなわち美少女の仮死体を蘇生させるという神秘的な仕事を終えた後、今度は酷たらしい少女の虐殺屍体を無造作に扱うという異常な作業に取り掛かっているのだから、その神経がどれほど昂進し、心理がどのように変化しているのかは、常人には想像もつかないことだろう。
若林博士は、少女の胸腹部を咽頭まで縫合し終えると、最後に一際鋭い小型のメスを手に取り、少女の顔面に向かって立ち向かった。