九 ジョバンニの切符 (3/3)
von 宮沢賢治
ジョバンニは、まるで弾丸のように立ち上がった。誰にも聞こえないように窓の外に身を乗り出し、力いっぱい胸を叩いて叫んだ。その後、彼は咽喉が詰まるほど泣き出した。
周囲が一瞬、真っ暗になったように感じた。その時、後ろから優しいセロのような声が聞こえた。「お前はいったい何を泣いているの?ちょっとこっちを見てごらん。」
ジョバンニは、驚いて涙を拭い、振り向いた。そこには、カムパネルラが座っていた席に、黒い大きな帽子をかぶった青白い顔のやせた大人が、優しく微笑みながら大きな一冊の本を持っていた。
「お前の友達はどこかへ行ってしまったのだ。彼は本当に今夜、遠くへ行った。もうカムパネルラを探しても無駄だよ。」
「どうしてそんなことに?」ジョバンニは悲しげに尋ねた。「僕はカムパネルラと一緒にまっすぐ行こうと言ったのに。」
「そうだ、みんなそう考える。しかし、一緒には行けない。そして、みんながカムパネルラなのだ。お前が出会うどんな人でも、みんな何度もお前と一緒に苹果を食べたり、汽車に乗ったりしたのだから。だから、お前はさっき考えたように、あらゆる人の一番の幸福を探し、みんなと一緒に早くそこに行くがいい。そうすれば、そこで本当にカムパネルラといつまでも一緒にいられるのだ。」
「僕はきっとそうします。でも、どうやってそれを求めたらいいでしょう?」
「私もそれを求めている。お前は自分の切符をしっかり持っておくんだ。そして、一生懸命勉強しなければならない。お前は化学を学んだだろう?水は酸素と水素からできていることを知っているよね。今は誰もそれを疑わない。実験してみれば本当にそうなんだから。しかし、昔はそれを水銀と塩でできていると言ったり、水銀と硫黄でできていると言ったり、いろいろ議論したのだ。みんながそれぞれ自分の神様が本当の神様だと言うだろうが、他の神様を信じる人たちのことを考えると涙がこぼれることもあるだろう。そして、私たちの心が良いか悪いかを議論しても、結局勝負がつかない。しかし、もしお前が本当に勉強して実験でちゃんと本当の考えと嘘の考えを分けることができれば、その実験の方法さえ決まれば、信仰も化学と同じようになるのだ。さあ、この本を見てごらん。これは地理と歴史の辞典だ。このページには紀元前2200年の地理と歴史が書かれている。よく見てごらん、これは紀元前2200年のことではなく、その頃の人々が考えていた地理と歴史が書かれているのだ。」
「だから、このページ一つが一冊の地歴の本に相当する。いいかい、そしてこの中に書いてあることは紀元前2200年頃にはほとんど本当だ。探せば証拠もたくさん出てくる。しかし、少しでも疑問を持ち始めると、次のページがある。」
「紀元前1000年。ずいぶんと地理も歴史も変わっているだろう。この時にはこうなのだ。変な顔をしないでほしい。私たちの体や考え、天の川や汽車、歴史だって、ただそう感じているだけなのだから。さあ、私と一緒に少し心を静かにしてみよう。」
その人は指を一本上げて静かに下ろした。すると、突然ジョバンニは、自分という存在や自分の考えが、汽車や学者や天の川と一緒にぽかっと光り、静かに消えて、またぽかっとともり、消え、そしてその一つがぽかっとともると、広い世界ががらんと開け、あらゆる歴史が備わり、すっと消えると、ただがらんとした、もうそれっきりになってしまうのを見た。それがだんだん早くなり、まもなくすっかり元通りになった。
「さあ、いいか。だからお前の実験は、このきれぎれの考えの始まりから終わりまでを網羅しなければならない。それが難しいことなのだ。しかし、その時だけのものでもいいのだ。ああ、見てごらん、あそこにプレシオスが見える。お前はあのプレシオスの鎖を解かなければならない。」
その時、真っ暗な地平線の向こうから青白いのろしが、まるで昼間のように打ち上げられ、汽車の中はすっかり明るくなった。そしてのろしは高く空にかかって光り続けた。
「ああ、マジェランの星雲だ。さあ、もうきっと僕は僕のために、僕のお母さんのために、カムパネルラのために、みんなのために、本当の本当の幸福を探すぞ。」
ジョバンニは唇を噛みしめ、そのマジェランの星雲を見つめて立っていた。その一番幸福なその人のために!
「さあ、切符をしっかり持っておいで。お前はもう夢の鉄道の中ではなく、現実の世界の火や激しい波の中を大股でまっすぐに歩いて行かなければならない。天の川の中でたった一つの、本当のその切符を決してなくしてはいけない。」
あのセロのような声がしたと思うと、ジョバンニは、あの天の川が遠く遠くなり、風が吹いて自分がまっすぐに草の丘に立っているのを見た。また、遠くからあのブルカニロ博士の足音が静かに近づいてくるのを聞いた。
「ありがとう。私はとても良い実験をした。私はこんな静かな場所で遠くから自分の考えを人に伝える実験をしたいとさっき考えていた。お前の言った言葉は、すべて私の手帳に記録してある。さあ、帰っておやすみ。お前は夢の中で決心した通りまっすぐに進んで行くがいい。そして、これから何でもいつでも私のところへ相談においでなさい。」
「僕はきっとまっすぐに進みます。きっと本当の幸福を求めます。」ジョバンニは力強く言った。
「では、さよなら。これはさっきの切符です。」
博士は小さく折った緑色の紙をジョバンニのポケットに入れた。そして、その姿は天気輪の柱の向こうに見えなくなってしまった。
ジョバンニはまっすぐに走り、丘を駆け下りました。ポケットが重く、カチカチと音を立てているのに気づき、林の中で立ち止まりました。ポケットの中を調べると、あの緑色の、夢の中で見た不思議な天の切符に包まれた大きな二枚の金貨が入っていました。
「博士、ありがとう、お母さん。すぐに乳を持って行きますよ!」ジョバンニは叫び、再び走り出しました。胸の中にいろいろな感情が一度に押し寄せ、なんとも言えない悲しさと新しさを感じました。
琴の星は西の方へ移動し、夢のように足を伸ばしていました。ジョバンニは目を覚ましました。丘の草の中で疲れ果てて眠っていたのです。胸は熱く、頬には冷たい涙が流れていました。
彼はばねのように跳ね起きました。町はすっかり元の通りで、下ではたくさんの灯りが輝いていましたが、その光はなんだか以前よりも温かく感じました。夢の中で歩いた天の川も、やはり白くぼんやりと流れ、南の地平線の上では特に煙ったように見えました。その右には蠍座の赤い星が美しく輝き、空全体の様子はそれほど変わっていないようでした。
ジョバンニは急いで丘を下りました。夕食を待っているお母さんのことが胸いっぱいに思い出されました。黒い松の林を通り抜け、ほの白い牧場の柵を回って、さっきの入口から暗い牛舎の前に戻りました。そこには誰かが帰ったらしく、さっきはなかった一台の車が、何かの樽を二つ載せて置いてありました。
「今晩は!」ジョバンニは叫びました。
「はい」と、白い太いズボンをはいた人がすぐに出てきて立ちました。「何のご用ですか?」
「今日、牛乳が僕のところへ来なかったのですが。」
「あ、申し訳ありませんでした。」その人はすぐ奥へ行き、一本の牛乳瓶を持ってきてジョバンニに渡しながら言いました。「本当に申し訳ありません。今日は昼過ぎ、うっかりして柵を開けておいたものですから、大将がすぐに親牛のところへ行って半分ほど飲んでしまいまして……」その人は笑いました。
「そうですか。ではいただいて行きます。」
「ええ、本当に申し訳ありませんでした。」
「いいえ。」ジョバンニはまだ温かい牛乳の瓶を両手で包み込むように持って、牧場の柵を出ました。
しばらく木々のある町を通り、大通りへ出てしばらく行くと、道は十字に分かれました。その右手には、さっきカムパネルラたちの明かりを流しに行った川にかかる大きな橋のやぐらが、夜空にぼんやりと立っていました。
ところが、その十字路の町角や店の前には、女たちが七、八人ずつ集まって橋の方を見ながら何かひそひそと話していました。そして橋の上にもいろいろな明かりがいっぱいでした。
ジョバンニはなぜか急に胸が冷たくなったように感じました。そして、近くの人たちに向かって叫ぶように尋ねました。「何かあったんですか?」
「子どもが水に落ちたんですよ。」一人が言うと、その人たちは一斉にジョバンニの方を見ました。ジョバンニはまるで夢中になって橋の方へ走りました。橋の上は人でいっぱいで、川は見えませんでした。白い服を着た巡査も出ていました。
ジョバンニは橋の袂から飛ぶように下の広い河原へ降りました。河原の水際にはたくさんの明かりが忙しそうに上下していました。向こう岸の暗い土手にも火が七つ八つ動いていました。その真ん中を、烏瓜の明かりもない川が、わずかに音を立てて灰色に静かに流れていました。
河原の一番下流の方に、洲のように出たところに人々が集まり、くっきりと黒い影を作っていました。ジョバンニはどんどんそちらへ走りました。すると、ジョバンニはいきなりさっきカムパネルラと一緒だったマルソに出会いました。マルソがジョバンニに駆け寄って言いました。
「ジョバンニ、カムパネルラが川に入ったよ。」
「どうして、いつ?」
「ザネリがね、舟の上から烏うりの明かりを水の流れる方へ押そうとしたんだ。そのとき舟が揺れたもんだから、水に落ちてしまった。するとカムパネルラがすぐ飛び込んで、ザネリを舟の方へ押しやったんだ。ザネリはカトウにつかまった。でも、カムパネルラはその後見えないんだ。」
「みんな探しているんだろう。」
「ああ、すぐにみんな来た。カムパネルラのお父さんも来た。でも、見つからないんだ。ザネリは家に連れられていった。」
ジョバンニはみんながいる方へ向かいました。そこには学生たちや町の人たちに囲まれて、青白いとがった顎をしたカムパネルラのお父さんが黒い服を着てまっすぐに立ち、左手に時計を持ってじっと見つめていました。
みんなもじっと川を見ていました。誰も一言も物を言う人はいませんでした。ジョバンニはわくわくしながら足が震えました。魚を捕るときのアセチレンランプがたくさん忙しそうに行ったり来たりし、黒い川の水はちらちら小さな波を立てて流れているのが見えました。
下流の方の川には、銀河が大きく映り込み、まるで水のないそのままの空のように見えました。ジョバンニは、カムパネルラはもうあの銀河のはずれにしかいないのではないかという気がしてなりませんでした。
しかし、みんなはまだ、どこかの波の間から「僕、ずいぶん泳いだぞ」と言いながらカムパネルラが出てくるか、あるいはカムパネルラがどこかの人の知らない洲にでも着いて立っていて誰かの来るのを待っているかというような気がしているようでした。しかし、突然カムパネルラのお父さんがきっぱりと言いました。
「もう駄目です。落ちてから四十五分たちましたから。」
ジョバンニは思わず駆け寄り、博士の前に立ちました。「僕はカムパネルラが行った方を知っています。彼と一緒に歩いていたんです」と言おうとしましたが、喉がつまって何も言えませんでした。博士は、ジョバンニが挨拶に来たのだと思ったのか、しばらく彼をじっと見つめていました。
「あなたはジョバンニさんでしたね。今晩はどうもありがとう」と、博士は丁寧に言いました。
ジョバンニは何も返せず、ただお辞儀をしました。
「あなたのお父さんはもう帰っていますか?」博士は時計をしっかり握りながら、再び尋ねました。
「いいえ」と、ジョバンニはかすかに首を振りました。
「どうしたのかなあ。僕には一昨日、元気な便りがあったんだが。今日あたりにはもう着くころなんだけど、船が遅れたのかな。ジョバンニさん、明日放課後、みんなと一緒にうちに遊びに来てくださいね。」
そう言いながら、博士は再び川下の銀河が映る方へじっと目を向けました。
ジョバンニは様々な思いで胸がいっぱいになり、何も言えずに博士の前を離れました。早くお母さんに牛乳を持って行き、お父さんの帰ることを知らせようと、彼は一目散に河原を街の方へ走り出しました。